Scene 1 愛洲 藍華

Scene 1 愛洲 藍華

 愛洲 《あいす》藍華あいかが俺の学校一の秀才であることは、もはや周知の事実だ。故に、今更彼女の秀逸な才能の数々を並べ立てとしても、それはただの時間の無駄である。無駄遣いとさえ言えるだろう。

 つまり、俺が考えるべきことは一つ。

 何故俺の部屋の俺のベットに顔を伏せて、件の愛洲が寝ているのかということである。

「すやすや」

「てか起きてるだろお前」

 すやすやなどと口に出す者が、眠りに落ちているとは到底思えない。実際にそんな寝息を吐く人間が居てたまるか。

「あー、バレた?」

「寝たふりをしたつもりではあったんだな」

 愛洲は俺にとって、所謂幼馴染の一人だ。家が近いゆえに昔から仲が良い、などという安直な関係をそう呼ぶのならだが。

「それで、なんの用なんだ」

 俺がそう問いかけると、愛洲は小さな欠伸を一つして、こう言った。

「自転車盗まれたから学校まで送って」

「は?なんで俺が」

 俺が嫌だということを隠さない口調で言うと、

「いいじゃんどうせ同じとこなんだし」

 と面倒そうに愛洲は言った。

 確かに通っている学校は同じだ。しかし、

「自転車での二人乗りは危険だ」

 と俺は自身の見解を述べた。というか、昔、愛洲と二人乗りをして大怪我したのだが、彼女にその記憶はないのだろうか。あるいは、あれを恐怖の対象とは見ていないのだろうか。

「もしかして、昔のこと言ってるの? 大丈夫よ、今なら。というか、あなたも自転車に乗らないと遅刻するんじゃない?」

 そう言われて時計を確認する。

 ……非常に残念だが、彼女の言う通りだった。自転車なら余裕を持てるが、徒歩ではもう間に合わない時間だ。

「仕方ない、送ってやるから出てけ。着替える」

「はいはいっと」

 愛洲が部屋から出たのを確認し、俺は急いで着替え始めた。

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