ここにある光ーAnswerー
リフ
『私』
――舞い上がる花弁は静かに降りゆく。瞬きの合間に色を咲かせて――
私は女子だ。
ただ一つ、普通の人と違う所は『彼』に対する想いだけ。
それは高校に入学してしばらく経った頃だった。
友達に誘われてバスケ部の練習を覗きに行った。
その子曰く「学園のアイドルがいる」とのこと。だけど正直、私には関係ないなと思っていた。だって特に可愛くもない私がアイドルだ、とはしゃいだところで――。
今日も彼を覗きに来た。
彼は光る汗を弾けさせ、一人二人と相手を躱していき、一瞬止まると綺麗なシュートを決める。同じチームの仲間と笑顔でポジションに戻る姿に私は頬が熱くなるのを感じた。
――チラッ。
彼が一瞬こちらを見たような気がする。私は瞬間、扉の影に隠れた。
恐る恐る覗くと彼はすでにチームメイトの方を向いている。
良かった……見つかってないみたいだ。私はそのまま練習が終わるまで彼を見続けていた――。
どちらから告白したかは……内緒だ。
付き合ってしばらく経った頃、渚が倒れた。
それはバスケットの練習中。上履きを蹴り捨てて駆け寄る。渚の身体は震えていて、抱き留めた私も震えているように思えた。
あれからどれだけの時が過ぎただろう。少なくともそう長くはなかった。
「なぎさ……」
渚は死んでしまった。最期を看取ったのは私。
寝顔はどこまでも穏やかで、微笑んでいたように思う。膝から伝わる体温も愛おしかった。
だけどそれも過去のこと。渚は光の中に消えてしまった。後に残されたのは暗闇だけ。顔を伏せ堪える。
――いや、違う。視線のすぐ先、少しだけ膨らんだお腹。命は繋がっている。渚との繋がりも、また。
――春色のかけらは積もり成す。巡る想いは浚い行く――
病室の天井はもう見えない。
「あぁ……やっと迎えに来てくれたのね」
淡い光の中、彼は少し困ったような笑みで。
『―――』
伝わる想いが私を満たす。
「いっぱい話したいことがあるの」
あなたが居なくなってからのこと。私達の子供のこと。どんな気持ちで――。
『―――』
差し出した手を握ってくれる。
そこには見慣れたシミも皺もなく、私は高校生の頃に戻っていた。
「あ……」
見れば自身の格好も彼と同じく高校の制服だ。プリーツスカートが可愛くて別の高校に行った親友に自慢していたことを思い出す。
『―――』
彼の声はまだ聞き取れないけど、じきに聞こえるようになるだろう。
私はもう境界線に立っている。
「少しだけ待ってね」
遠くには高校が見える。目の前には懐かしい並木道。彼と歩いた通学路。両脇に植えられた桜は柔らかな風を受け春色を散らす。
「―――」
最期の声は聞こえ辛いだろうから。
未来へ進むあなたたちに。
想いをのせて、伝えよう。
いつかの彼と同じように。
一生分の愛を――。
ここにある光ーAnswerー リフ @Thyreus_decorus
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