このイえはエ体のShiれないものがsuむ
結葉 天樹
二年間の悪夢
あれは、どのくらい前のことだっただろうか……ああそうだ。私が小学校五年生の頃の話だ。思い出したくない体験だったから思い出すのに手間がかかったよ。
当時、これまで住んでいた借家が区画整理の対象になって立ち退きする必要が出たんだ。私の親はここで、家を買うという一大決心をした。
市の郊外で売りに出されていた二階建ての一軒家を購入したんだ。
引っ越し作業を一緒にしながら、父はこの家のローンを何年かけて払い続けるか。そのために仕事を頑張ると話した記憶がある。
そうして引っ越してから数か月後のことだった。
母の実家の祖父が亡くなった。
肺癌だという話だ。ヘビースモーカーだったのでそれについては仕方ないと思った。事実、祖父の部屋はたばこの煙がいつも浮いていた記憶しかない。まあ、この話は今回のこととは関係がないので割愛しよう。怖いのはここからだ。
ちょうどその頃、私は学校行事でスキー教室に行っていた。だが、この時は妙なことが立て続けに起きた。
元々そんなに混んでいるスキー場ではない。だが、私が滑走しているとすぐ近くに人が寄って来たり、スキー板が接触するなどの危険なことが何度も起きていた。
私はスキーのような危険が伴うことで冒険的なことはあまりしない。だから次に起きたことも、いまだに原因がわからない。
止まらなくなった。
必死にハの字に板を広げて、脚を踏ん張って止めようと思ったが、まるで停止する気配が見えない。このままでは猛スピードのまま人に激突するか、あるいはコース外に飛び出して大怪我は免れない。
私は一か八か、雪を積んである山に飛び込んだ。やや傾斜があったので空中に投げ出されたが、背中から雪山に墜落し、怪我一つなかったのは不幸中の幸いだった。
妙なことは続く。
一度収まったはずのいじめが、再燃した。仲の良かった子までが敵に回りクラスの男子の半分以上はいじめに加担していた。女子の大半は私を毛嫌いした。そして私は不登校になった。何とか卒業はしたが、果たして封印してしまったのか、六年間の締めくくりとなったはずの小学校生活の最後はあまり記憶が残っていない。
その後、父が仕事で大怪我を負った。
仕事を辞めざるを得なくなり、家のローンは母の負担となった。
中学に上がると、いじめはさらに広がった。
私も心を病み始め、一時は自殺も考えた。
立て続けに起きる不幸。さすがに何かおかしい。家族全員がそう思い始めていた時だった。
夜、寝ようとしていた私の耳に何か耳慣れない音が聞こえたのだ。
私の部屋は二階にあった。窓からはすぐに屋根に出ることができた。
だが、その時は深夜だった。まず何かが屋根にいるとは考えにくい。
最初は猫かと思った。だが、屋根を歩く足音が明らかに重いものがゆっくり歩を進めているそれだった。
ブラインドの向こうで何かが歩いている。
一歩一歩、歩いてくる。
そして
その歩みは枕元で止まった。
その事実を認識した途端、私は布団にもぐり込んだ。
ブラインドの向こうを覗き込んではいけない。
絶対に目を合わせてはいけない。目を開けることすら禁忌に思えた。
小さい頃はお化けが苦手だったが、これはそんな不気味さではない。
得体の知れない何かがすぐそこにいるのだ。
そこからは何も覚えていない。恐怖のあまり、あの夜の時間をどう乗り越えたのか記憶が残っていないのだ。
あれは、もしかしたら小動物の類だったのかもしれない。
だが、私はあの夜、窓の向こうで立ち止まった”何か”が歩き去った音を聞いていない。
いったいあれは何だったのか。
今でも謎である。
後に、私たち家族はそこから引っ越し、私も転校した。
一度父が死にかけるほどの大病を患いはしたが、彼は今でも元気に生活している。
そして、あの二年間ほどの不気味さと悪い雰囲気は家族に訪れることはなかった。
その後、家の基礎工事に墓場の土が使われていたと聞かされた。
それが嘘なのか本当なのかは分からない。
だが、私は二度とあの家に関わりたいと思わない。
私たちが出た直後にあの家に入った家庭があったそうだが、幸せな生活を営んでいることを願うばかりである。
以上。これは私が人生で唯一経験した怪異の記録である。
結葉天樹
このイえはエ体のShiれないものがsuむ 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki
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