少年漫画ノリ

curuss

 ――轟!


 両雌りょうゆうは熱気に包まれていた!

 不敵な笑みを漏らしつつ互いを見据え仁王立ちガイナだちしている!


 ――否!


 辺りを占めていたのは熱気ではなかった。

 もっと危険で致命的な――

 腐気だ!

 それも視認できるほど濃密に圧縮され、両雌りょうゆうを包み込み――

 腐海を顕現せしめていた!



「『安室×赤井』!」

 女々おおしき嗤いと共に一人が吠える。

 嗚呼! その御立派な身体はあたかも魔獣! だが、それよりも驚くべきは――

 実体化した言霊が腐気を伴って腐海へ吸い込まれていったことか?

 いや、違う!

 真に注目すべきは、腐海を顕現せしむる腐気の一つひとつが――

 全て言霊だったことだ!


「『一松×カラ松』!」

 対立者が応じる。

 ……なぜかその風体はバンカラだ。頬の十字傷すら、格式を感じさせる。

 だが、その異装よりも、瞳に宿る輝きに注意するべきだ。なぜなら――

 楽しんでいる!

 常人であれば一呼吸で肺を焼かれる腐海での戦いを、あきらかに彼女は楽しんでいた!


「くっくっく……流石よ。『翼×小次郎』だ!」

「なんやと? きさん……『翼君×岬君』じゃなかとね?」

「生憎とコレだけは譲れぬ。さあ、俺は『翼×小次郎』! そして貴様の番だ!」

「……ならッ! 『右京×亀山』たいッ!」


 そうやって、また言霊が捧げられる!

 なんとも恐ろし光景だ。よく見てみれば数え切れないほどの言霊が蠢いて!

 これぞ腐海に伝わる――


 『貴腐人の戦い』に他ならなかった!


 朦朧としていく意識。なんとなれば彼女ら二人は、三日三晩も戦い続けている!

 常人ならば、すでに腐気で焼き尽くされていただろう!

 伝説の決闘――『貴腐人の戦い』は、それほどまでに過酷!

 だが――


「見切った! 貴様のへきは王道リバ! 死ねいッ! 『巻島×東堂』!」

「ぐはぁーっ!」

 ……なにがどう作用したのか、バンカラ漢女おんなは片膝をつく!


 そして長き戦いの決着が近づきつつあった!

「ならば『ヴィクトル×勇利』じゃ!」

 だが、それは王道! へきを指摘された反骨からか!?

 しかし、言霊こそ紡がれるも、いかにも弱々しい。消えつつあるのはこころ? それとも萌える心いのちか?

「『リヴァイ×エレン』!」

 と魔獣の漢女おんなが叫ぶ!



 ――そして時が止まった!



 バンカラ漢女おんなは跪いたまま強敵ともを見上げる。……その瞳に宿る絶望は濃い。

 両雌りょうゆうを包んでいた腐気も、いまは晴れて青空が広がっていた。

 その青さを嘲笑うかのように魔獣の高笑いだけが響く。

 ……長き戦いに幕は落とされたのだ。


「なん……で? こんな? それに……」

「どうした? 笑えい! 貴様の勝ちだ!」

 そういうなり魔獣は胡坐をかいて座り込む。

 彼女ほどの豪の者ですら、もはや立ってはいられないのだろう。

「……『リヴァイ総受』でも良かったろうが!」

「駄目だ! 譲れぬ! 天地砕け散ろうと……『リヴァイ×エレン』しか認めぬ!」

 そう言い切った魔獣の顔は、満足げだ。


 ……確かに後悔も無くはない。

 定番すぎるほどの『リ』攻め。そこで『リヴァイ』と口にすれば死路なのも判りきっている。

 『凛×遙』か? もう答えていた? それとも相手が先に使って?

 けれど、全ては遅い。

 朦朧とした意識の果てに『リ』を投げられ、魂が『リヴァイ』と口にしていた。

 ……つまりは定めなのだろう。


「そうか……譲れんものは……ある!」

 バンカラ漢女おんなも納得の印に肯く。

 そう彼女達には命や魂よりも大切な譲れないものがある。

 だからこそ、彼女達は『貴腐人』と呼ばれるのだ!


 二人の気持ち良さそうな笑いは、晴れ渡った空へと溶けていく。

 ……これから天へと帰る魔獣を祝福するかのようだ。


「冥途の土産だ! 貴様の望みを聞かせろ! 『七つ揃えればアレがアレするアレ』に託す『願い』を!」

 口の端からの血を気にもせず魔獣は嗤う。

 ……『貴婦人の戦い』で蓄積された腐気――その全てが彼女を蝕み続けているのだ。

「えっ? いや……そのー……改めて尋ねられると……そのー……」

 意外なことにバンカラ漢女おんなは恥じらう。

 それが可笑しくてたまらなかったのか、魔獣は破顔する。

「ああ、実に満足だ! 貴様のその顔を見れただけでも、先にあの世へ行った奴らへの土産話にできる!」

「か、揶揄うな! そげなこと言うよるなら……貴さんらこそ、どげな『願い』を!」

 堪らずバンカラ漢女おんなも反撃に転じる。

 しかし、あの『貴婦人の戦い』で見せた迫力が嘘なようだ。

「我らか……我らの『願い』は、あり触れたものよ」

 知れず両雌りょうゆうは、互いが所有権を掛けて争った『七つ揃えればアレがアレするアレ』へと視線を落とす。

 ……彼女たちの青春。そして人生そのものといっても過言ではないだろう。

「ただ我らは――


 『カヲルくん×シンジくん』を現界せしむる。


 それだけの為に集った」

「な、なんとッ! そげな『願い』すら叶えられるちゃ!?」

 さすがのバンカラ漢女おんなですら驚く。

 だが、敗者の『願い』は届かない。

 魔獣の脳裏に浮かぶは、女々おおしく散っていった同志たちの姿か。

「それより聞かせい! 今度こそ貴様の『願い』を!」

 ……せめて勝者に媚び諂うようなことはしない。死んでいった同志たちの誇りの為に。

 そのような思いでもあったのか、魔獣は強引に話題を変える。

「いや、その……わしは――


 この世の全ての男の人に、ヤオイ穴を付けてもらおうかと」


 一瞬、魔獣は言葉を失っていた。文字通りにポカンと口を開けてしまっている。

 あまりの発想に、理解が追いつけなかったのだろう。

「この『願い』を叶えてもらえたら……『男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛できる』世界になるはずなんじゃあ」

 頬を掻きながら恥じらうが……まごうことなく真性! 格が違った!

 もはや魔獣は嗤うしかない。

「なるほど! ことごとく我らが負けるも道理! 発想のスケールで負けていたわ!」

 呵々と笑う魔獣には清々しさがあった。

 夢を追い。命を懸け。負けて尚、胸を張って死んでいける者の矜持が。



 ――だが、その両雌りょうゆうの表情は一変する。



「この気はッ!? 奴らか?」

「……誰ぞ? 知り合いか?」

「くっ……我らと袂を分かった――


 『シンジくん×カヲルくん』を現界せしむる派


 の残党だ!」

 おお、これぞ『異端より異教』! 腐海にリバ論争の種は尽きまじ!

「なるほど。そりゃあ仲良うできん」

「まあ、まて! しょせん奴らは本放送以降の勢力。我らの敵では――」

 だが、起き上がろうとするだけで魔獣の身体は崩れ去っていく!

 ……すでに魔獣かのじょの時間は潰えていた。

「うおぉーっ! 我らの戦いは正当なものだった! 皆、いま一瞬の力を! この素晴らしい漢女おんなの為に道を作る時間を!」

 慟哭。

 それは魂からの慟哭だった。

 勝者が勝者と報われるからこそ、敗者もまた慰めを得られる。

 だが――


 魔獣かのじょは目の当たりにすることになる!

 存在の全てを賭けて争った強敵ライバルの……真の力を!


                             【未完・続かない】

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