第147話 結局は同じ
【ミラニラ】
「何も、言えなかったわね」
ぽつりとこぼす。
去っていく彼の背中を私は視線だけでしか追うことが出来なかった。
「ほんと、余計な事をしてくれたわ」
私は彼に付いて行きたかった。
付いて行き、彼の力を私のもとに引き入れたかった。
でもその目論見はついえた。
今の私の同行者が彼と敵対してしまい、その所為で彼の私へと向ける目も完全なる拒絶となってしまったからだ。
あぁ口惜しい。
どうしてもその感情が目元に現れてしまう。歯を軋み鳴らしてしまう。
あいつを、村をあんなにしたあの悍ましき女を倒す為、強さを求めなくてはならならないというのに。その目的の為にハルのあの常軌を逸脱した膂力は是が非でも欲しかった。
この考えがどれだけ汚らしく狡いかなんてなんてのは疑問視するまでも無くわかり切っている。
だけど私はこうすることしか出来ない。
私自身の力がどの程度かなんてもう十分に思い知らされた。どれだけ望もうとも、どれだけ鍛えようとも、所詮凡人は凡人でしかないのよ。常識を超える事などできはしない。だから自分がやるなどと出来もしない無双に現を抜かすつもりは無いわ。それでもあの忌まわしい天才を打ち破るには鬼才か同じ天才に頼るほかない。
罵られようと、蔑まれようと、恨まれようとかまわない。
目的を成し遂げる為であればいくらでも人を騙し取り繕って見せる。
今の居るこのパーティーも十分なほどに素質はある。
ジョシュは自分を卑下しているけど確実に才能にあふれた剣士であることは間違いないわ。努力を怠らない真摯さは何よりの才能とも言えるもの。
アカデミーで見て来た彼は間違いなく原石そのもの。常に磨くことを怠らない彼だったらいずれ名を馳せる猛者となるでしょう。
でもこのパーティーで一番の主力となるのはやはりリアでしょうね。
彼女の魔法に対する適正は脅威の三属性。何に気を使っているのか彼女はそれを見せない様に知られないようにとしているみたいだけど、人知れず魔法の訓練を夜にしているところを私は見ている。三属性の魔術師なんて国に一人いるかどうかという天才だわ。
だから私はこのパーティーを引き込んだ。
でもあのハルを見てしまってからは所詮原石は石でしかないのだと理解した。
そもそもの始まりが違っていた。磨くから光るとかではない。本当の天才はそこにあった瞬間から眩しいのだ。
だから今回も彼らを捨てようとした。
より使えるもの、良いものを求めて。
そうする事で私は力を強く大きくしてきたのだから。
そこまで考えて思わず口元が歪に持ち上がった。
「・・・・・・所詮は同族ね。反吐が出る程救いようがないわ」
その事に嫌悪すらしない自分がいる。
その所業はまさしくあの姉がしたことと同じだ。
自分が強くなるために手段を択ばない。その為であれば親でも殺すあの悪女と同じ。
そんな私に向けた軽蔑と蔑みの笑み。
結局のところ私もあいつと何も変わりはしない。
目的の為なら全てを犠牲にする、そんな身勝手でしかない人種。
でも今はそれでも良いわ。
それであいつが殺せるのなら・・・・・・・・私はいくらでも地獄に落ちてあげる!
そう帰結し、私はまだ捨てる訳にはいかなくなった仮初の仲間に手を差し伸べる為、彼らの元へと重い足を延ばした。
その時だった。
「ぐあぁっぁ」
「に、にげろぉ!」
後方を固めていた冒険者たちが大地の砕ける轟音と共に悲鳴を上げた。
何事と振り返ると、そこには見覚えのある凶悪が立っていた。
「っ!?」
巨大な筋肉の塊のような肢体に蠢く炎の様な痣を浮かべた、あの止められなかった暴威。
未だかつて見たことも無い未知の怪物にして、私たちが必死でその脅威を知らせる為に逃げてきた元凶。
「グゥォオオオオオオオオオ!!」
オーガの変異体と思われる魔物が、その巨体を存分に見せつけ獰猛な雄叫びを上げた。
異世界ゲームは趣味である ~レベルという概念の無い世界でレベルアップするのは反則だろうか~ シシオドシ @tokahona
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