邪帰祭

愛創造

ナイアルラトホテップ

 夢――人類が餓えて求めた、地獄と楽園の想像世界――に誰かが堕ちて往った。私はぐわんぐわんと鳴く脳味噌を、諦めたように抱え込んだ。棲み憑いた鬼面の冒涜は、私と共に歩み続ける。足跡を忘れた雪の如く。されど私は私の夢。幻想を記憶する術を知らぬ。故に此度の遊戯は『夢を視た演技』だと思考すべきか。さて。私が彼に出遭った所以を騙り尽くそう――昨日か。一昨日の話だ。真夜中。宙に灰色の靄が掛かり、最果ての星々が地球を嘲笑う頃。私は永劫と刹那の狭間に身を定め、現実世界からの飛翔を試みて在った。おそらく。日々の睡眠不足か、生活の乱れが引き起こした、至極面倒な体調不良だろう。自殺するような、晴れやかな気分で己を翻弄する。貌の無い、滑った皮膚の鬼どもが『御大』を攫うが如く歪んで視得た。総ては私の嗜好思考回路の成した頽廃だ。誰の精神にも巣食わぬ、救い難い物語の奴隷よ。其処で私は友人に、エラブネホテプに会うべきだと誘われた。私は此処で疑問を投げる――ナイアルラトホテップではないのか――何でも、闇黒のファラオは時代ときおくれで、最近の流行は混濁させる邪らしい。私は嗤った。此れが真の二番煎じか。此れが真の『影響力』か。友人を家に帰した後、私は会う事も無く、日常だけに双眸を向けた。莫迦だ。騙るに為しても阿呆の極みだ。一笑して破棄すべき。さあ。夢の中でも夢を覗こう。ぐるぐると、脳味噌が鳴く前に……脈動する虚空に螺旋墜落する――光輝。怪奇。回帰。私が到達したのは尖塔どもと人間の『理想郷』か。狂気と正気が共生し、死も感情の列に並ぶ。否定は無い。在るのは肯定と運命の歯車だ。歯車に従う人間は、筆を掴んで世界を続ける。続く世界は混沌の領域で、如何なる『もの』でも証明された。神も悪魔も天使も佛も人間も石像も破滅も繁栄も愉悦も不愉快も無も有も――混ざるように。濁るように証明に粘着された。勿論、私の在り方も証明に支配され、虹色の球体に晒されたが如く変貌した。私は人間だ。私は動物だ。私は植物だ。私は昆蟲だ。私は貴様だ。貴様が私だ。されど私が混迷に陥る事など在らず、心地良い世界に捕縛される。視よ。私が諦めた、夢の撹拌が始まった。聴け。私が嘲笑った、夢の抱擁が始まった。皆が跪く中で、私は天蓋を仰ぐようで――其処には何も無い。ナイアルラトホテップの既存的な無貌設定が、エラブネホテプを喰い散らかした――如何だ。騙った内容は満足可能な『もの』だろうか。ああ。五月蠅いな。私の筆に文句が在るならば、私の心臓に熱を注ぎ込め。


 蛇足冗長も偶には必要だろう。

 私こそがエラブネホテプだ。

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邪帰祭 愛創造 @souzou_Love31535

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