冒険者は干し肉を齧らない?――科学的に朝食を摂った方が良い理由

curuss

第1話

〇ハンガーノック


 これはエネルギー不足のまま活動すると――食事を摂らないと動けなくなるという、非常に判り易い現象です。

 マラソンや登山、行軍などで注意事項として知られています。


 身体が予期せぬ大量エネルギー消費に危険を感じた反応ですから、止める方法もないでしょう。

 ようするに緊急停止スイッチ――動かなければエネルギー消費も止まるです。

(強制的に身体を止め、その間に脂肪からエネルギーを生産する。「専念したいので、マジに動くな。言うこと聞かなかったら、貧血起こしちゃうぞ?」となる)


 ここで重要なのは、根性や慣れで克服不可能なところでしょう。


 しかし、必ず起こる訳じゃありません。

 大雑把な目安として、その日に消費するカロリーの半分を、食事として摂取しておけば防げます。


 が、マラソンや登山、行軍などの必要カロリーは4000超!

(含む生命維持のエネルギー)


 痩せ細る覚悟でも、半分の2000カロリーを摂ってないとハンガーノックを起こしてしまいます。

 当然、夜までにではなく、一日の前半で!

(もちろん可能であれば、夜に残り半分も補充が望ましい。また数値には諸説ある)


 でも、朝起きたと同時に2000カロリーいけますか?


 オニギリが180カロリー前後ですから、個数にして約11個!

 そんなの無理!


 となれば脂っぽい系で効率よく処理したいところですが……行動エネルギーとして摂取するのなら、炭水化物がベター。

 また、油は消化がよくありません。


 そして炭水化物でもエネルギー化に3時間ほど!

(逆算すると昼食の丼飯では、間に合わない可能性がある)

 また容量を超えて摂取しても、満腹すぎて動けなく!


 というわけで登山家や兵隊さんは、朝食に炭水化物を限度一杯まで食べて、それでも足りず、行動食と称し歩きながら飴やらチョコやら摂ります。

 つまり――


 苦肉の策!


 あまりに過酷すぎて、人類ではエネルギー摂取が追い付かないのです!

 昨今ではマラソン選手も競技中に食べるほど!



〇でも、日常生活でハンガーノックなんて起きなくね?


 確かに起きません。

 生命維持するだけなら必要カロリーは1500程度ですが――


 一日の前半で半分の750カロリー――オニギリ4つ分程度を摂取してないと動けなくなる


 とはなりません。

(まあ寝てるだけな前提で、ハンガーノックを起こしていても区別できない可能性あり)


 非アクティブな学生やサラリーマンで一日2000カロリー。

 しかし、朝昼で合わせて1000カロリーとってないと駄目……とは、なり難い?


 下手したら朝昼抜きが基本という人すらいるでしょうから、この程度の活動ならハンガーノックは完全に考えなくて良さそうです。


 軽作業の社会人、緩い運動部、子供のいない主婦で2500カロリー。

 ……さすがに晩御飯まで食事なしは辛くて無理?

 でも、昼食までにハンガーノックは起き辛い?


 普通の肉体労働、運動部、子供のいる主婦で3000カロリーぐらいです。


 さすがに朝食抜きだと、ハンガーノック起こす可能性も。

 でも、おそらく――


 お腹が空き過ぎてフラフラするから、たまらず食事を摂った


 となるでしょう。ずばり初期症状ですし。

 学生の場合、朝食抜きで貧血となる場合も。

(ダイエットで日常的なエネルギー不足なのに朝食を抜くと、ハンガーノックになりやすい?)


 といっても、必ずではないでしょう。

 朝食なしが習慣な肉体労働の方も見受けられますし……慣れや訓練で対応可能な範囲?


 重労働や農作業、スポーツ選手で3500カロリーとなり――


 もうマラソンや登山に近い感じ!


 昼食までにハンガーノックを起こしてもおかしくありません!

 ……もしくは朝食なしが習慣の場合、昼ごはんまでは流す感じ?


「嘘だゾ。俺は朝に缶コーヒー一本。10時にもう一本で、ずっと朝飯なしだゾ」

 みたいな反論もあるでしょう。

 でも、缶コーヒーって200カロリーぐらいあって、それだけでオニギリ一個分ですから!


 絶食を参考にすると、なんと世界記録は382日!

 その間は蓄えた脂肪で乗り切ったそうですから、逆にいうと――


 脂肪からエネルギー供給できる消費ペースならハンガーノックは起きない


 となる?

 留意するべきは消費速度?

 が、マラソンはともかく登山と行軍は、時間当たりで消費ペースの低い方(そこそこの消費を長時間に渡ってというのが辛い)

 そう考えると普通の肉体労働から消費速度は上回っている模様。

 ……ようするに軽め運動からハンガーノックの危険性はある?



〇では、国民皆農民な時代だと?


 全員が農作業するんですから、朝食摂らない訳がありませんww

 誰ですかエジソンの発明とか言い出した人ww

 人類は狩猟民族だった頃から朝食必須ww でないと効率悪いww


 というか西洋では弁当という概念がないぐらいですから、ながく昼食という習慣もなかったはずです。

 もう朝に丼飯かパンやエールをモリモリ食べないと農作業なんて、とても無理!

 農夫は毎日オニギリ20個必要なんですから!

 そしてビスケットの祖先が農民の行動食だったというのも、納得の話です。ある方が正しいですから!


 ……よって『重税過ぎて食べる物もない』的な表現も話半分とするべきでしょう。

 日々の糧まで奪い去ってたら働けなくなって、「来年からどうするの?」となります!


 もちろん馬鹿な支配者はやらかしたし、それで人口減る→収入減→さらに重税→もっと人口減る→……のループへ!

 当然、一揆や逃散、反乱が起きるし、隣国から攻め込まれたりも。

 ……一番最悪なのがローマ属州など。

 任期制でチャンスの限られてる総督は本気で搾り取りにくるし、ローマの戦力相手だと解放してくれる人もいません。



〇2chで有名な飛脚の話


 明治期かな?

 飛脚に感心した西洋人が――

「米なんかじゃパワーでないだろう」

 とステーキを奢ったんだそうです。

 しかし、その心遣いは裏目に。

 飛脚はすぐにバテてしまい、ぜんぜんパワーが出ませんでした。


 ……うーん?


 おそらく飛脚は、一日に4000カロリー――22個のオニギリ食べてます。でないとマラソンレベルの活動できませんから。

 そしてハンガーノックまでケアしたら朝食と昼食、行動食で2000カロリーを摂っています。

 時代的に考えると、ほぼ朝食で。昼食や行動食は慰め程度でしょうか?

 そして2000カロリーをステーキへ置換すると――


 1.5キロ!


 いや、無理でしょ!

 たしかに飛脚は朝飯で「オニギリ8個、味噌汁、主菜、おしんこをペロリだ」ぐらいな健啖家だったと思われます。

(減らすのであれば、昼食や行動食が増える)

 でないと職業的な長距離走者になり得ないから。

 それでも1.5キロのステーキは無理でしょう!

 というか――


 用意されたのは0.5キロ程度のステーキ。

 そのボリュームに飛脚も満腹を覚えるほど。


 だったんじゃ?

 そして――


 朝に700カロリー程度では、マラソンを走りきるなんて無理!

 当然にハンガーノックを起こし――


「飛脚に肉を食べさせたら走れなくなった」


 と結論だけ独り歩きしたのでは?



〇兵糧丸


 これも誤解の宝庫と思われます。

 おそらくハットリくんかな?

 あれで――


「この兵糧丸一粒あれば一日行動可能でござるよニンニン」


 とやっちゃったから?

 念のために言っておくと、現代の科学力でも不可能です。

 しかし、実際に兵糧丸は作られていたそうですし、各地の大名も研究に力を入れたといいます。

 長く作者も「昔の人は純真だったんだなぁ。兵糧丸を信じるなんて」と思ってましたが――


 よく考えたらおかしいです!

 昔の支配者が「一粒で一日行動できる」と信じて兵糧丸を作ったのであれば――


 もちろん人体実験したに決まっています!


 そして飴玉サイズに込められるカロリーなんて高が知れてますから、当然にハンガーノックを起こし――


「ああ、兵糧丸って無理だな。作れないな」


 と結論でちゃいます。

(作者の調べた範囲では、食用油のグラム当たり9カロリーが限界でしょうか?)


 なのに実際は、熱心な研究の跡が窺える。

 つまり、本来の用途は別にあった訳で、作者は当時の人なりの――


 行動食の研究


 と考えています。

 たとえば現代行動食の粋はカロリーメイトで、一本20グラムなのに100カロリー!

 朝からカロリーメイトをもしゃもしゃ食べ続ければ、たった20本で雪山登山レベルのエネルギーが!

(実際、カロリーメイトを利用されている方もいる。一日分400グラムは破格の軽さ)


 そして兵糧丸も――


 朝から戦争してて、もう夕方でござる。

 シャリバテ――ハンガーノックの日本風言い回し――する前に、このカロリーメイト丸をもしゃるでござるよニンニン。


 とする道具だったのでは!?

 なぜなら兵隊も当然にハンガーノックを起こしたから!

 格言に「腹が減っては戦はできぬ」とあるのも、実体験によるフィードバックだったのでは!?



〇そして殺意の高い朝駆け


 夜討ち朝駆けとありますが……実は朝駆けの方が殺意高いような?


 すでに説明した通り、肉体労働者は朝食が必須です。

 それは兵隊も変わりありません。


 しかし、朝食をとる前――全軍が起床する直前を狙ったら?


 もちろん寝起きで不意を討たれてしまいます。

 しかし、真の問題点は別にあって――


 そのまま長期戦へ引きずり込まれると、自軍だけハンガーノックを起こす可能性が高い


 ことじゃないでしょうか?

 つまり、朝飯を食べていないのに重労働ペースで動き続けると――


 昼前に動けなくなったり貧血で倒れたり!


 自分じゃなくても誰かが倒れるだけで大惨事です!

 そこから連鎖的に苦境へ追い込まれます!


 しかし、夜討ちと違って辺りが明るく!

 そのまま壊滅したら、逃げるのに最悪です!

 昼頃から夕方まで追跡され続けるという最悪の悪夢! しかも腹ペコで!


 不意打ちスタートという悪条件なのに、戦力拮抗で長期戦となってもアウト!

 かといって壊滅したら大虐殺!

 なんとしてでも防衛陣を組んで、全軍に朝食を摂らせるところから立て直さないと駄目!


 ……最悪すぎる! 完全に相手は殺しに!


 でもね!

 そんな時にはハットリ印の兵糧丸でござるよニンニン!

 数粒食べればあら不思議! 昼まで身体が動くでござる!


 ……それ以上は軍師さんに何とかしてもらってね!



〇おそらく冒険者は干し肉を齧ってない


 登山や行軍の食料や行動食を研究すると、まずカップ麺が疑問となります。

 原典たる日新カップヌードル醤油は、77グラムで353カロリー!

 なんと1グラム当たり4.5カロリーで、相当に使いやすい!?


 が、そんなものを使うのは素人も良いところ。

 軍隊での利用は散見できるものの、登山家は跨いで通ります。

 なぜか?


 当然ながらお湯が必要で、メーカーのサイトには300ミリリットルとありました。

 つまり――


・水またはお湯を消費する

・お湯を沸かすのであれば、燃料と道具が要る


 と二つのデメリットを持つからです。


 手持ちの水350ミリリットルを消費するとしたら、本体と合わせて427グラム。

 グラム当たりへ直すと0.8カロリー! カロリーメイトの6倍重い!


 ……登山でカップ麺が贅沢品となるのも納得です。

(軍隊の場合、コストパフォーマンスが重視され、水も大量に持ち込むので、登山家ほど回避はしない模様)


 さらなる欠点も!


 しょっぱい食べ物は喉が渇くので、水を余分に使ってしまいます!

 カップ麺もカップ麺で、化学調味料による喉の渇きを覚えやすいですし!


 実際、登山家さんで干し肉やスルメは避けた方が良いと主張される方も。

 そして乾パンも同じく水が必要なので、実は登山家のリュックに入ってないこともあるとか。

(それでもグラム当たり4カロリーは優秀だし、行動食への転用も可能。最後の保険として持ち歩く人は多いとか)


 どのみち水の問題があるので、行動期間を長くはできません。

 備蓄保存食と登山家や冒険者の食料は、似て非なるもの!

 ようするに食べ物が腐る心配しなきゃならないほど活動できないのです。

 結果、保存食とは違って――


・どれだけ軽いか

・消化は良い物か

・行動しながら食べられるか


 の観点が重視されます。


 乾パンや干し肉は結果的に重く消化も悪いので、それほど良い食料ではありません(が、もちろん悪くもない)

 パン類であれば、実は蒸しパンのようなしっとりした水気のある方が有用といいます。

 ……保存性と重さあたりのカロリーを考えたら、ベストはパウンドケーキでしょうか? カロリー稼ぐのにナッツ類を混ぜ込んで?

 そして干し肉よりは、ドライフルーツなどでしょう。



〇さらに手から水が出るなら、もっと話は変わる!


 水やお湯で戻す食品は世界中に溢れています!

 そして手から出るのなら、荷物の半分を占めてた水も不要!

 アメリカ軍の指針では、一人につき一日3リットルですから――


 片道一日のダンジョンへ行くのに、冒険者は9リットルの水を担ぐ必要があります。


 それが不要となったら9キロ減!

 もはや「なんだろうと好きな食べ物を持っていくが良いさ」状態です(苦笑)

 手から水が出る魔法が、どれだけ世界を変えることか。


 ……むしろ水が潤沢だから、乾パンや干し肉という選択に?

 でも、なんだって長期保存を重視?

 普通のパンとベーコンでも二、三日は持つのに?


 荷馬を利用していても、数日おきに給水の必要あります。

 それは水場を伝って旅するということで、ほとんどの場合は人里です。


 つまり食料も数日おきに買い求めれます。


 そうでない場合、水確保の魔法が必須となりますから、やはり違うセオリーです。


 弁当に例えるとよく判る?

 乾パンの缶詰を持ってきて――

「これだと日持ちするんだ」

 と主張する人を想像してください。

「いや、そうかもしれないけど……弁当だぞ!? どうして年単位の保存を!?」

 と思うはずです。

 まあ、それなりに腐り難い食品を選択する必要はあるでしょうけど。



〇結論


・頭脳労働専門であれば、好きな時間に食事を摂ればよろしい


・身体を動かすなら朝食推奨。重労働で必須


・昼に摂取では間に合わない可能性アリ


・夜の分は脂肪となるので、無駄ではないが即応性皆無


 となります。

 踏まえての万能受けが――


・朝食をしっかりとる


 でしょう。

 さらに――


・昼食は朝食の補填(朝食で摂りきれなかった場合に食べる。食べなくても良い)


・夕食は一日の総決算(活動量に帳尻合わせる程度。調整目的。食べなくても良い)


 が科学的に正しい食事方法!?



 ………………信じる前に、専門家と相談しよう!

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冒険者は干し肉を齧らない?――科学的に朝食を摂った方が良い理由 curuss @curuss

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