第18話『ガリアでの後悔』

ガリア戦争が三年目に入る頃、カエサルがこの選択をすべきではなかったのではと、激しい悔恨に襲われた瞬間がありました。

具体的に何の選択を後悔したかは記されていませんが、この事はガリア戦記にも一見してそうとは見て取れない様、かなり注意深く記されています。

カエサルはどうやら、今自分が居る場所について、自分が選んだことについて、その瞬間の自らの全ての有り様について後悔した様です。

しかし、多くの何らかの些細な瞬間と同様、この後悔の瞬間が永遠に留まり、後々に影響することはありませんでした。

瞬間は瞬間でしかなく、カエサルはその強烈な後悔の痕跡を記録に止めただけで、ガリア戦争を継続していきます。

カエサルがこの時、具体的に何を考えたのか、どちらにせよガリアの只中に居て、それ以外の場所ということであれば、戦争を放棄してローマに帰還しようと考えたと見るのが妥当でしょうが、歴史家の意見はそれぞれ違います。

その瞬間がカエサルにとってなんだったのか。何か必要と考えていたことが全く無意味に思える瞬間というのは、古今東西どんな立場の英雄にもあることですが、注意深いローマの軍事指揮官であり、ガリア戦争を通じて名声を得、ローマ軍をローマではなく自分自身に忠誠を誓う軍に鍛え上げた人物が、自らの遠征記録に書き記すほどの瞬間です。特別なものには違いありません。

物理学者で、同時に哲学者でもったエルンスト・マッハが、瞬間についての思考実験の手掛かりとして、幾度かこの記述に言及しています。マッハは、カエサルのこの記述を創りだした観点自体を、カエサルの政治家としての注意深さとは切り離して捉えることで、認識と瞬間の関係について考察しています。

その後カエサルは、経験に乏しい海戦に赴き苦戦を強いられていますし、戦は続いていきますが、この瞬間ほどの後悔の記録はありません。

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世界の秘密 Nakazo @nakazo

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