ロボのひとくち読書感想文

ロボ

ペンギン・ハイウェイ

早速でなんだが私はこの作品を二年以上前に読んでいる。端から趣旨と違って非常に申し訳ないのだが、映画公開で何かと盛り上がりを見せる森見登美彦の異色作『ペンギン・ハイウェイ』について何か述べたくなったので、この場を借りて芳醇な記憶を辿りながら書かせて頂こう。


上記にも異色作と書いた通り、森見登美彦という作家にして、この作風は少しばかり毛色が違う。森見登美彦と言えば『京都』『大学生』『馬鹿馬鹿しさ』を混ぜて世にも可笑しくファンタジーに変えてしまう『マジックリアリズム』という手法が特徴的だ。等身大の現実世界をフィーチャーし、彼の古式ゆかしい文体で切り取られた世界はモダンな印象を一切持たない。分かりやすく例えるなら大正文学の文体を現代に照らし合わせたかの様な異質さを読み手に与えます(あくまで私の意見ですが)。正直、すごく好みが別れる作家なので万人にオススメする事は出来ません。私は物凄く好きです。


御託はいいとして。内容としてはどうなんだと問われれば。やはり森見登美彦らしからず諧謔味が少し足りないというのが正直な感想です。シニカルな表現を常としてきた作家故の筆の迷いや、あえて稚拙に寄せていく文体は妙な違和感を抱いてしまう。コメンタリーなどにも達観した自分と純朴な少年時代の景色の相違などで執筆に四苦八苦したと。その苦悩は物語にも反映されているではないかと私は思う

まだ原作を未読、映画を未視聴の方のために配慮しますが、この作品は極致的に娯楽作品の域を出ないのではないだろうか。設定は良くも悪くも支離滅裂であり、物語の結末は綺麗に嵌ってはいるのだが、読者の多くに謎を与えたまま終わっている。

(備考までに追記しておくがこの作品は日本SF大賞を受賞している。私怨に近しいことを言うと、日本SF大賞の権威を著しく落としているのはこういうところにあると思う)

個人的見解としては、構成やキャラクター造形などはよかったのだが、設定の突飛さや結末が私の中で清々しく結びつかなかったのは非常に残念に思えた。まぁしかし内容としてはとても面白く、ひと味ちがった森見登美彦を見られて私としては大満足である。

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