第11話 榎本一身の闘争


 「こいつぁ笑えるぜ!おい親父!てめぇ双子だったのかよ!」

と言うとそれがツボに入ったのか隣の男も腹を抱える。

「あ、いや、私は―――」

と親父が否定しようとするがそれを聞いてすらいない。

「そいつを離せ、派手チンピラ」

息を整え、親父を指し示し、長髪を挑発する。

「あぁ?!雑魚が何人増えようが構わねぇが状況わかって言ってんのか親父」

語彙力がないな。

両方『親父』だと分けて呼ぶときに困惑するぞ。

「あ、いや、私は―――」

ほらな。

「てめぇじゃねぇよ黙ってろ!」

そういって派手紫はでむらさきは親父を投げ飛ばす。

「まずそっちの親父そっくりな親父からだ。やるぞ」

「そうしよう!そっちの方がムカつく親父だもんねアンちゃん!」

あぁ、お前ら兄弟なのね。

しっかし前回とは違って多勢に無勢かぁ、少し苦戦するかもな。

二人が腕を振りかぶり、近づいてくる。

まずは先陣を切ってやって来た若者(弟)の腕を掴み、力の方向は変えずに受け流す。

続いてやってきた派手紫は少し驚きながらも攻撃の手を緩めない。

同じく殴りかかってきた派手紫の腕を掴み、背負い投げを決めた。

目の前に兄貴が投げ飛ばされ、弟は戦意を喪失すればいいのに――――

――――と思っていたが結果は思っていたよりいい方向に転がった。

意外と後ろに受け流されなかった弟が、投げ飛ばされた兄貴にかかと落としされた形になり、大ダメージを受けた。

ラッキーパンチとはこの事……おっとキックか?いや、投げ飛ばしたからまた別の――――

「ってぇな!!おい!コージ!おい……あー!つっかえねぇな!ノビてんじゃねぇぞ!!」

あぁ、思ったより打たれ弱いなぁコイツ。

「弱い弟を持つとお兄ちゃんは苦労するんだな」

「あぁッ!?おめぇの弟よりはマシだクソ親父!」

いやぁ、勘違いしているようだがそっちは俺のお父さんだ。

「らぁッ!!」

という咆哮と共に近づき、蹴りが飛んでくる。

それを鈍痛と共に受け止め、脚を極めた。

「暴れるな、折れるぞ」

ただの靴にしては堅いなぁ……あ、シークレットブーツか?

やけにデカい靴だと思ったが。

「離しやがれ!ってぇな!おい!離せ!!!」

「暴れるなって。このまま弟連れて帰れ。女たちに少しは言い訳が立つぞ」

「あ?!なんでてめぇ知って……いででででで!!!」

余計な事を思い出して少し力が入る。

「あぁ――――それと彼女達未成年だろ。早く家に帰してやりなさい。警察官はこの時期、どこにでもいるぞ」

チッ――――と舌打ちが聞こえ、脚を離し、距離を取る。

「てめぇ、素直に俺が『ごめんなさい』って謝ると思ってんじゃ――――」

胸ポケットから取り出した警察手帳を驚愕の顔で見る派手紫に追撃の《こうげき》だ。

「言っただろ。どこにでもいるって。罪状は――――」

「すいませんっしたあぁ!!!!!」

早いなぁ。

そう言ってまだ意識も虚ろな弟を起こし、走り去っていった。

プランα成功っと。

「あ、あの――――」

おっと。

「大丈夫ですか?おやぁ?すごい!驚いた!まるで瓜二つ!双子って言われたのも納得ですね!」

三文芝居にはぴったりの大根役者だ。

「あ、はい、びっくりですね。いや、ありがとうございました。おかげで助かりましたよ」

「いや、たまたまアナタが連れていかれてしまうところを見まして、少し腕に覚えがあったために助太刀に入らせていただきました。いやぁ間に合ってよかった。では本官はまだパトロールがありますので!」

自分の事『本官』って言う人、初めて見たなぁ。

「あの、いずれお礼をさせていただきたいのですが、お名前を教えていただけますか」

本当にあれだな。

時代劇の助太刀する侍みたいな展開だな。

「お礼など、頂けませんよ。警官として当然の事をしたまでです」

しかし、呼び止めてくれて助かった。

まぁ義理堅い親父ならそういうだろうとは思ったのだけれど。

「そんな……それでは私の気が収まりませんよ」

この反応も父親の性格を織り込み済みで台本通りと言える。

「それでは――――そうですね、少し休憩にするのでコーヒーでも奢っていただけますか?それでお互いチャラってことに」

「それくらいお安い御用です。それではさっそく――――あ」

「どうかいたしましたか?」

やっと思い出したか。

いつ言い出すかヤキモキしてこっちから言い出しそうになった。

「あぁ、彼女を待たせているんです。彼女も一緒でいいですか?」

「そうですよね、クリスマスですしお連れがいるような気がしていたんですよ」

「でもはぐれてしまいまして」

「……携帯で連絡してはいかがです?」

「あぁ!完全に失念していました!」

まったくこの夫婦は、文明の利器を現代人として活用する術を知らないと見える。

大体ではあるものの、俺は彼女の、母さんの居場所を知っている。

そっち方面に歩きながら、携帯で連絡さえ取れれば合流は容易だろう。

「さっそく連絡をしてみます」

「そうですね。お二人の邪魔をするのも悪いので私はコーヒーを頂いたらすぐに立ち去りますので心配しないでください」

「アハハ……そうしていただけるとまた助けられます」

正直者にも程があるぞ、親父。

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振り返ればあの時ヤれたかも バターライス高岡 @batameshi

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