蛇の皮

安良巻祐介

 

 ぶらぶら散歩しているとき、道端にストッキングみたいなものが落ちているな、と思ってよく見てみると、なんと目がある。口がある。ストッキングではなく、恐ろしく大きな蛇の皮であった。思わずぎょっとしてしまったが、改めて見てみるとどことなく可愛い顔をしている。どこからやってきて、何ゆえこんな住宅街の真ん中の道路などに脱ぎ捨てていったのだろうかと思案しながら見つめるうち、何としたことか、その皮はぴくぴくと蠢いたかと思うと、へろりと首をもたげて口を開け、はははと笑ったではないか。今度こそ仰天して尻餅をついたこちらを尻目に、蛇の皮のようなそいつはわははははと快活な笑い声を上げながら、素晴らしい早さで道路を走り去り、山の側に続く路地の中へと消えていってしまった。

 ぽかんとして痛む尻を地につけたままにしているうち、なんだか恐ろしさとわけのわからなさがない交ぜになったような気持ちが突き上げて、こちらもあははははと笑い出していた。どうしようもないものに体を投げ出すような感じで一頻り笑ってから、はぁとため息をついて立ち上がる。初めて見たが、もしかしたらあれが妖怪と言うものか、とぼんやり思った。

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蛇の皮 安良巻祐介 @aramaki88

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