エピローグ
夜中、ベッドの根元で人が起き上がる気配で目が覚めた。
それは直感めいたものだった。何故か目を開けてはいけないと思い、目を閉じたままでじっとしていた。自分の呼吸が起きている人のそれではないのがばれないように、寝息に聞こえるように工夫することさえした。
そんな私の滑稽な努力を知ってか知らずか、真夜中の男の影は身を起こすと、身体の動き具合を確認するかのように、伸びをしたり数度屈伸したり首や肩をまわして骨を鳴らしたりした後で、わずかな月明かり(目を開けていないのにわかったということは、このときには雨雲はなくなっていたらしい)を頼りに、私の顔を覗きこんだ。
なにが心だ。知るもんか、そんなもの。ぽいっと投げ捨ててやる。
そんなふうに心の中で念じながら、私はこんこんと眠るふりを続ける。それなのに、そっと布団のなかに滑り込んできた手が、押し包むように優しく握ってきたのに振り払うことはしなかった。自分でもまったく不思議だとは思うのだけれど。寝たふりがばれるのを恐れたというわけはなかった。例の嫌悪感に襲われなかったのだ。
大きな熱っぽい、しっかりとしてかたい、男の人の手だった。
骨抜き男と潔癖女 和泉瑠璃 @wordworldwork
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