【小説】『小説家の作り方』を読みました。後半から別ジャンルになってるやんけ!

2020年9月21日





 野崎まど作品の中でも怪作と評される『2』に向けて初期作品を読み漁っている今日この頃。デビュー作である『[映]アムリタ』はもうすでに読んでいましたが、それ以降の作品は去年に出版された新装版の方で読んでいます。


 最初に『パーフェクトフレンド』を読み、以降『舞面真面とお面の女』と『死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~』を読み終わり、最後となったのが『小説家の作り方』(刊行順では『パーフェクトフレンド』が最後ですけどなぜか最初に読みました)。



 今回は新装版『小説家の作り方』について。










  書籍情報



  著者:野崎まど


 『小説家の作り方』


  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版


  刊行日:2011/3/25

 (新装版:2019/10/25)



  あらすじ(Amazonより転載)

 駆け出しの小説家・物実の元に舞い込んだ初めてのファンレター。そこには、ある興味深い言葉が記されていた。「この世で一番面白い小説」。あまねく作家が目指し、手の届かないその作品のアイディアを、手紙の主は思いついたというのだ。送り主の名は、紫と名乗る女性。物実は彼女に乞われるがまま、小説の書き方を教えていくのだが―。鬼才・野崎まど新装版シリーズ第4弾。「小説家を育てる小説家」が遭遇する非日常を描く、ノベル・ミステリー。









 あらすじを読む限りではよくある創作系のお話です。実際に序盤からの展開はまさしく小説執筆にまつわるドラマであります。


 この前半パートについて語るのに欠かせない存在がヒロインの紫依代。この子がですね、なかなかの不思議ちゃんなんですよね。



 作中においての創作講座ではかなり天然入った奇抜なボケをかますなど、ビックリするくらいのポンコツっ子。一方でヒロインの読書量が尋常ではなく、20年かそこらの人生で読んだ本はまさかの5万冊。


 よく「小説を書くには小説を読め!」という創作論はありますが、このヒロインは一言に「読み過ぎ!」なのです。だが多くの小説を読んだだけで優れた小説が書けるようになるわけでもないことは、小説投稿サイト「カクヨム」のユーザーさんであれば身をもって体験していることだと思います。


 そうです、いわばこのヒロインは、インプットはとてつもないハイスペックを発揮しますが、アウトプットが致命的にポンコツなのです。



 こういった実は超人(?)ヒロインは、『know』や『[映]アムリタ』などにもみられる作風ですかね。最近読んだ作品でいえばまさに『パーフェクトフレンド』のさなかちゃんとか。



 そんなハイスペック&ポンコツなヒロインとの創作講座は、受け答えが少し(かなり)ズレているためにもはやコントと化しているのです。このあたりは野崎まど作品においての小気味いいコメディ要素が発揮されているものでもあると感じました。内容的にも創作あるあるネタや役に立ちそうなアドバイスもあり、創作活動されている方なら参考になる点が多くあるかもしれませんね。







 そして後半から印象がガラリと変わります。



 この作品、序盤は現代ドラマ的なお話なのですが、後半からSFに化けます。



 ヒロインがですね、実は○○(ネタバレのため伏字)なんですよ!



 ネタバレにならない程度に明かしますと、ヒロインの正体がSF的な存在であるということです。


 そしてそこからのパートはSF的な設定や謎が解明&考察されいきますので、後半だけ読むと完全に本格SFでしかありません。前半部分との毛色がまるで違う!



 まあヒロインの正体が○○であるという要素もちゃんと伏線が用意されているというか、妙に納得してしまう感覚があります。ヒロインのハイスペックなのかポンコツなのかわからない能力もSF的存在であるからこそなので。なかなかうまいことヒロインの設定を活かしていると感じましたね。



 ただ後半がSFパートになるとはいえ、内容的にはかなり噛み砕いていますので、そこまで小難しいことをしているわけではありません。これまであまりSF作品を読んだことのないSF慣れしていない方でも充分楽しむことができるかとおもいます(それでも科学技術の造詣があるとより楽しめるネタが挟まっています)。そういう意味であれば、この作品は別にSFとして売り出されているわけではありませんがSF入門作品としてオススメできる一冊ではないかと思います。







 またこの辺りのジャンル変更の展開は、野崎まど作品によくみられる、よくも悪くも後半ぶっこんでくる作風そのものでもあるかと。二重にも三重にもどんでん返しを繰り返しをした『HELLO WORLD』や、衝撃展開により一気に転化した『バビロン』のように、この『小説家の作り方』ではジャンルそのものを変えてきたといった具合です。


 ファンの方はもちろんそうですし、自分みたいにたまたま野崎まど作品を読み漁っている人にとっては安定感があって楽しめるといったところ。作風に馴染みのない初見の方であればビックリポイントとして衝撃があるかもしれませんね。









 そんなこんなで、ドラマとしてもSFとしてもオススメな良作『小説家の作り方』でした。







 さて、あとは本命『2』を残すのみですが、買おうと思ったらえらい高い値段で、調べてみたら文庫なのに600ページほどあるとのこと。……お金と時間に余裕ができたら挑戦したいと思います。








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20年1月24日公開

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