【小説】『2』を読みました。自作品クロスオーバーの怪作であり、集大成

2021年4月25日






 半年ほど前に野崎まど作品の新装版シリーズを読み(一作目『[映] アムリタ』を除く)、いくつかの作品をこちらで記事にしました。そんなこんなであれやこれやと半年が経過した今、ようやく新装版の最終作品である『2』を読んだ次第。いやだって、一つだけページ数がすごいんだもん……。


 という感じで今回は野崎まど作品の中でも怪作と呼ばれている(?)作品『2』について。








  書籍情報



  著者:野崎まど


 『2』


  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版


  刊行日:2012/8/25

 (新装版:2019/11/22)



  あらすじ(Amazonより転載)

 創作することの極地。それが『2』。日本一の劇団『パンドラ』の入団試験を乗り越えた青年・数多一人。しかし、夢見たその劇団は、ある一人の女性によって“壊滅”した。彼女は言った。「映画に出ませんか?」と。言われるがまま数多は、二人きりでの映画制作をスタートする。彼女が創る映画とは。そして彼女が、その先に見出そうとするものとは…。『創作』の限界と「その先」に迫る野崎まど新装版シリーズ・最終章!!『2』が、全てを司る。








『2』は、野崎まどの初期作品『[映] アムリタ』『舞面真面とお面の女』『死なない生徒殺人事件 〜識別組子とさまよえる不死〜』『小説家のつくり方』『パーフェクトフレンド』の五作品に登場していた人物が出てくる作品。2019年にこれらの作品が新装版として装いを新たに再リリースされました。


 かくいう私も新装版が出たことをきっかけに野崎まど初期作品を読み漁った次第。ただデビュー作である『[映] アムリタ』に関しては旧版で読んでいましたので、新装版では『舞面真面とお面の女』から『パーフェクトフレンド』までを読みました(無茶苦茶な順番でしたけど)。そのため『[映] アムリタ』は読んでから何年も経過しているせいか、正直に言えば内容がうろ覚え。なんとなくの雰囲気は覚えているといったところでした。


 ただうろ覚えとはいえ『[映] アムリタ』はかなりインパクトのある作品であり、とくにメインの登場人物である最原最早というヒロインはヤベェやつという印象はよく覚えています。『[映] アムリタ』はミステリー的でもありホラーテイストでもあり広義的にはSFである作品なのですが、その大体の元凶はこのヒロイン最原最早であるという認識です(むしろそれくらいしか覚えていない)。



 そして今回読んだ『2』は、これまでの五作品の登場人物が一堂に会した所謂クロスオーバーものでありますが、そこでもキーとなる人物として最原最早が登場します。むしろ他の作品の登場人物よりもかなり優遇された登場で、普通にメインな立ち位置であるくらい。クロスオーバーものではあるのですが、話の性質としてはむしろ『[映] アムリタ』の正統な続編と言えるのではないかと。『[映] アムリタ』の続編『2』に他作品の人物がゲスト出演しているみたいな印象を受けました。まあそれでもクロスオーバーであることには変わりありませんけどね。








『2』の話の本筋としては、基本映画制作を題材にした現代ドラマです。『[映] アムリタ』も映画制作を題材にしている分、『2』との親和性があるという感じですかね。ただ『2』では途中でよりSF色が出てくるといいますか、映画制作の現代ドラマに、進化論の観点からの創作や文化といったものに切り込んで紐解いていく解釈の描写があり、それがまた作品のテーマ性とリンクしているなど、ある種のサイエンス・フィクション的な特徴を持っているといったところでした。



 またラストでは野崎まど作品恒例のどんでん返しも健在。デビュー作『[映] アムリタ』もどんでん返ししてきますし、近年の作品でいうと『HELLO WORLD』もどんでん返しの繰り返しですし、そしてなにより忘れてはいけないのがどんでん返しして失敗した『正解するカド 』など、野崎まど作品においてどんでん返しは最早お家芸。


 この『2』においても最後の最後でとんでもないどんでん返しを仕掛けてきますが、しかしそこに至るまでのクライマックスシーンでもパンチの効いたギミックが仕掛けられている具合。


 こういったどんでん返しは、よく二転三転すると表現することがあるかと思いますが、そういう意味で言うならばこの『2』は二転三転どころではなくグルグル回り続けるくらいに激しいどんでん返しと言えましょう。しかもその仕掛けが話の大体残り二割になってきたところで一気に畳みかけてきますからたちが悪い。


 そうなんですよね、話の八割くらいは普通に映画制作しているんですけど、ラストでその映画制作の真意が普通じゃねぇって展開になるんですよね。それまでの話も普通に楽しめるのですが、最後の最後でこういったインパクトを仕掛けていることもあり、面白い読後感を得られる作品だったような気がします。とにかく、最原最早はヤバい女だ、ということで。






 今やSF作家としての実績もあり、また元々の芸風でもあるどんでん返しの切れ味も健在で、さらにコンセプトとなっている初期作品のクロスオーバーなど、この『2』という作品は野崎まど作品群の中でもターニングポイント、一つの到達点ともいえる作品ではないでしょうか。


『2』を境目に、野崎まど作品は「『2』以前」と「『2』以後」と分類できそうですね。それくらいに集大成的な作品だったと感じました。






 という感じで、野崎まど作品の中でも異質な作品『2』でした。








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