【小説】『[映]アムリタ』を紹介。デビュー作からすでに野崎まど節を炸裂!

2020年1月24日





 先日、野崎まど脚本によるアニメ映画『HELLO WORLD』の小説版ノベライズを読みました。今更感があるかもしれませんが、いえ今回は積読していたわけではなく、新鮮な気持ちで読みたかったので、映画の内容がうろ覚えになったころを見計らって読み始めました。つまりただの積読ではなく意図した積読というわけでして……。要は積読です。



 まあそれはどうであれ、いやー小説版もよかったですよ。まあ内容は映画と同じなんですけど、文字の媒体である小説だからこそ細かい心理描写などがわかりやすかったです。一方で、やっぱり『HELLO WORLD』は映像向きなお話だったという印象を改めて感じましたね。あの世界観を文字だけで表現するには限度があるようで、映画を見てから読んだからまだいいものの、小説が初見だった人はどういった感想を抱くのか気になりましたね。別に文章の描写に瑕疵があるというわけではなく、純粋に文章化が難しく読者としてイメージしにくいシーンが多かったというだけなんですけどね。これといってお話が悪いとか、ましては作者が悪いということは一切ありません。作品自体が映像を前提に作られていただけです。



 と、先述の通り小説版『HELLO WORLD』は映画とほぼ同じ内容です。内容の面白さについては以前記事を書きましたので、『HELLO WORLD』についてはそちらを読んでください。






【映画】『HELLO WORLD』を見てきました。あれ? これ面白いぞ! まさにこういうSF映画が見たかった

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886711486/episodes/1177354054891300059






 で、今回取り上げるのは、今や小説だけではなく映像作品の脚本なども手掛ける小説家野崎まど先生のデビュー作『[映]アムリタ』についてです。傑作SF小説『know』を上梓したときは「ポスト伊藤計劃」なんて呼ばれていましたし、去年はそれこそエンタメSF映画『HELLO WORLD』の脚本、そして現在では衝撃の原作小説を映像化した『バビロン』がテレビアニメ放送しています。(『正解する̚カド』については忘れてください)そんな鬼才(奇才?)作家のデビュー作も、その異質っぷりを発揮した作品になっていますので、野崎まど作品入門としてご紹介。







  書籍情報



  著者:野崎まど


 『[映]アムリタ』


  KADOKAWA メディアワークス文庫より出版


  刊行日:2009/12/16



  あらすじ

 自主制作映画に参加することになった芸大生の二見遭一。その映画は天才と噂される最原最早の監督作品だった。彼女のコンテは二見を魅了し、恐るべきことに二日以上もの間読み続けさせてしまうほどであった。二見はその後、自分が死んだ最原の恋人の代役であることを知るものの、彼女が撮る映画、そして彼女自身への興味が先立ち、次第に撮影へとのめりこんでいく。しかし、映画が完成したとき、最原は謎の失踪を遂げる。ある医大生から最原の作る映像の秘密を知らされた二見は、彼女の本当の目的を推理し、それに挑もうとするが――。第16回電撃小説大賞 《メディアワークス文庫賞》受賞作。









 以前の記事でも書きましたが、第16回電撃小説大賞というのはメディアワークス文庫賞が新設された回であり、『[映]アムリタ』を受賞した野崎氏が初代受賞者というわけになります。



 受賞作品である『[映]アムリタ』は、あらすじであったりキャッチコピーであったりする部分でミステリー推しがされていました。当然内容もミステリー作品でありました。……そう、「基本」というのが重要なところです。



『[映]アムリタ』を普通に読んでいくと、登場する大学生たちの日常に訪れる奇妙ともいえる不思議なことを解き明かしていくお話であり、いってしまえば普通の大学生の物語であり、普通のライトミステリー作品であるという印象を抱きます。


 そしてラスト、クライマックスで真実が明らかになるのですが、この段階に差し掛かってから「ん?」といった具合で、作品のおかしさに気がつくという仕掛け。叙述トリック系の小説であればよく使われる意外性といったところでしょうか。



 ただし、この『[映]アムリタ』に関しては、その後半の意外性があまりにもぶっ飛んでいるのです。



 あまり詳しく語ってしまうと盛大なネタバレとなってしまいますので控えますが、『[映]アムリタ』はただのミステリーに収まらない要素が多く、見方によってはホラー的なオチであり、またSF(すこしふしぎ)っぽくもあり、最後の最後で作品のジャンルが様変わりする勢いで斜め上にすっ飛ばしていきます。そして読者としては圧倒とも困惑ともいえる激しい読後感に打ちのめされるのです。


 あえてオチの印象を語るならば、この作品においてのヒロインである最原最早の得体の知れなさ、不気味さ、異常性、などといったものが物語のラストで大爆発して膨張拡大していくといったところでしょうかね。とんでもない物語に触れてしまった、とんでもないヒロインに遭遇してしまった、といった感想が出てきましたね。







 といった具合で『[映]アムリタ』について語ってきましたが、ここで他の野崎まど作品に注目していきます。



 たとえば野崎氏の代表的なSF小説『know』ですと、一見サイバーパンクのように見えますが(見えるというか徹頭徹尾サイバーパンクですが)、物語の中で生じた謎を追求していった結果意外な到達点に辿り着いたという具合であり、本格SFでありながらも「そういうオチにもっていくのか!?」といった驚きが仕込まれた作品になっていました。


 また映画『HELLO WORLD』では、中盤で主人公(視聴者)は意外な真相に直面して物語として大きく転化します。またその転化ものちの事実によって上書きされ、最後には映像暴力といっても過言ではないほどのダイナミックで迫力のある怒涛の展開に至り、物語の起伏が非常に激しい映画であったと思います。


 そして現在放送されているテレビアニメ『バビロン』でも、中盤でショッキングな展開でストーリーが大きく動き、その後のお話の性質もただのサスペンスにとどまらない広がりを見せています。


 あと後半の展開がアレで酷評となった『正解するカド』も、内容はどうであれ実に野崎まど作品らしい急展開であったと記憶しています。




 これら作品に鑑みると、野崎まどという作家は「よくも悪くも後半ぶっこんでくる」といったどんでん返し系の作風であることがうかがえます。



 そういったどんでん返し系作家野崎まどの原点といえる作品が、まさにデビュー作である『[映]アムリタ』であります。デビュー作の時点で野崎まど節がこれでもかと発揮されているのです。とてもパンチの効いた作品でした。






 そしてそんな衝撃的な作品ですが、一方で出版されているのが電撃文庫系のライト文芸であるメディアワークス文庫ですから、文体であったり登場人物であったりする部分がとても馴染みやすく、小気味よく読むことができる読みやすさも兼ね備えています。そういった意味では、実に入門向け野崎まど作品といえるでしょう。



 ちなみにですが『[映]アムリタ』を含む、メディアワークス文庫から出た野崎まど初期作品が、なんと新装版として新しく出ました! 確か去年くらいにまとめて(徐々に?)ドーンといった感じで新装版が出版されたと認識しています。



 今現在ホッとな作家である野崎まどを、この機会に触れてみるのもいいかもしれませんね。







 ちなみに、野崎まど作品で『2』というものがあるのですが、これがなかなかの傑作(怪作?)であるらしいのです。が、この作品それまで出た野崎作品を全部読んでいることが条件といいますか、それまでの作品の続編的なポジションであるみたいです。レビュー等で確認してみると『2』単体でも読むことはできるみたいですが、より楽しむためには初期作品を読破する必要があるみたいです。新装版が出た今こそ『2』に向けて読み漁ってみるのもいいですが……そんなにお金も時間もないな……。いつか読みたいです。






 といった感じで『[映]アムリタ』でした。新装版が出ていますのでどうぞ。






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