【小説】『終わらない夏のハローグッバイ』を読みました。そうコレコレ。こういうのを求めていた

2020年1月31日





 自分の好みとしては、ライト文芸系の青春ストーリーと本格サイエンス・フィクションを足して二で割った感じのお話が好きなのですが、まあピンポイントでヒットする作品はなかなかないですね。というよりそういったジャンルを扱うレーベルが少ない感じですけど……。


 取り敢えずメディアワークス文庫をはじめとするライト文芸作品でSFっぽいのを選んだり、またハヤカワ文庫でライトノベル作家さんが書いた作品を読み漁ったりしています。で、今回読んだのは久々に刺さった青春SFでして、とても楽しめました。タイトルは『終わらない夏のハローグッバイ』








  書籍情報



  著者:本田 壱成


 『終わらない夏のハローグッバイ』


  講談社 講談社タイガより出版


  刊行日:2018/11/21



  あらすじ(Amazonより転載)

 二年間、眠り続ける幼馴染の結日が残した言葉。「憶えていて、必ず合図を送るから」病室に通う僕に限界が来たのは、夏の初めの暑い日だった。もう君を諦めよう――。しかしその日、あらゆる感覚を五感に再現する端末・サードアイの新機能発表会で起こった大事件と同時に、僕に巨大な謎のデータが届く。これは君からのメッセージなのか? 世界が一変する夏に恋物語が始まる!









 表紙であったり公式のあらすじであったりする部分では、一見近年話題になりやすい「ひと夏の青春」系映画のような印象を受けます。ちなみにこれは最近知ったのですが、そういった「ひと夏の青春」系の作品のことを「ジェネリック新海誠」と呼んでいる人がいるそうで、思わず「なるほどなー」と腑に落ちて感心してしまいました。まあただのネットスラングなのかそれとも単なる皮肉なのかはわかりませんが、確かに『君の名は。』以降ジェネリック新海作品が増えたような気がしますね。



 そういった意味であれば、この『終わらない夏のハローグッバイ』はジェネリック新海といえなくも……いや言えねぇな。




 確かにライト文芸によくある「ひと夏の青春」系ではありますが、しかしこの作品、想像以上にしっかりしたサイエンス・フィクションでした。






 この作品においてキーアイテムとなるのが「サードアイ」と呼ばれるガジェット。こちらは首の辺りに埋め込むタイプの超小型端末であり、効果としては人が感じる感覚を送受信するといったもの。人が感じた感覚をクラウド的に集め、その集めた「感覚」を引っ張り出してくることによって人体に感覚を再現するということです。イメージとしては拡張現実に近いかと。拡張現実は、現代では主に視覚に作用するものですが、この作品に登場する「サードアイ」は視覚だけではなく聴覚や触覚、嗅覚や味覚といった五感全てに作用する拡張現実といったところです。


 静かな場所で自分だけ音楽を聴いたり、室内で潮風を感じたり。そういった今現実にはない感覚を、プールされた他者の感覚を材料にして再現することが可能になったわけです。



 これらの感覚情報がネットワークによってシェアできる近未来設定のため、かなりサイバー感のある世界観でした。と同時に舞台が地方の再開発された港町であることもあり、古き良き日本の街並みにサイバーな要素がプラスされた、郷愁感と最先端が融合されてとてもグッとくる舞台設定でしたね。





 当然物語もサードアイを中心にサイバー的に進められていきます。ですが基本的なプロットとして「二年前に昏睡したまま寝たきりのヒロイン」を軸に、さながらサナトリウム文学っぽさがあるお話になっています。あらすじにもある「大事件」をきっかけに、主人公の少年はサードアイを駆使してヒロインのために行動していくという、サナトリウム文学をサイエンス・フィクションで攻めていくといった感じかと。



 そしてそもそもヒロインが目を覚まさない理由もサードアイが関係していて、ヒロインも首筋にサードアイを埋め込んでいるのですが、果たして昏睡している人間にとって五感の拡張現実端末であるサードアイはどう機能しているのか? もし昏睡している人間もサードアイを扱えるのなら、本当にただの昏睡なのか? そして昏睡しながらサードアイで何を感じているのか? といった具合に、物語が進むにつれて明らかになっていく事実と深まる謎により、次の展開が気になってしょうがないといった感じでグイグイとページを捲ってしまう引きの強さがあるお話でした。


 さらに、ネタバレにならない程度にラストを語ると、後半まさかのファーストコンタクトものの要素を取り入れており、作品を通して発せられるメッセージ性も相まって、ストーリー展開における意外性があってとても面白かったです。まさかライト文芸を思わせる青春サナトリウムから、オリジナリティあるサイバー要素で物語を進め、最後の最後でファーストコンタクトとか、この展開はさすがに予想できなかった。







 青春ストーリーという万人受けするキャッチーさと、さながら映画のようなメリハリのあるストーリー構成といった、近年の流行りの要素を取り入れつつも、一方で独自の設定が効いていて非常に読み応えのあるSFをぶつけてくる感じ。



 第一印象でライト文芸系の青春を期待すると肩透かしを食らってしまうかもしれませんが、しかしこれ、青春SFとしてかなり良作だったと感じました。というかライト文芸的にはハッピーエンドではないですが、しかしSFとして見るとこれ以上ない完璧なオチであったと思いますね。近いところですと映画『HELLO WORLD』をより文芸作品にした感じかも。いや素晴らしい青春SFに出会えましたよ。





 まさにライト文芸系の青春ストーリーと本格サイエンス・フィクションを足して二で割った感じの作品。こういうのが読みたかったんですよ! とてもいいものを読ませていただきました。ごちそうさまです!








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