追随
人生で初めて、友と呼べる存在に出会いました。
彼は、実に面白かった。
初めて会ったときが懐かしい。懐かしいといっても、たった数年前の事ですけど。彼は他者の血液を全身に浴びて、笑っていた。その瞳には自由が宿っていたんです。
あれほどに解き放たれた人間は、見たことがない。理性が吹き飛んだ頭で襲いかかってくる様は、実に美しかった。
なぜ、それほどに破壊を望むのかを彼に問いました。彼は一言だけ、壊されたから壊す、とだけ言ったんです。何の装飾もない真実が、彼の中にはあった。その真実の煌めきに、僕は惹かれたんです。正直は、清廉とは違う。
綺麗なだけでは、つまらない。
内側の錆や、歪みを、嘘偽りなくさらけ出す事の出来る人間が、僕は好きだ。
彼は息災でしょうか。
剥き出しにされた生命と心。
内側の水素を使い果たした星は、最後には死ぬんです。だから彼も、暴れまわる心を世界に撒き散らした後で、血潮を飛び散らしながら、息絶える。それも良いと思います。
世界と共に壊れ、滅びるのなら、彼も本望でしょう。
彼を常人たらしめていた
しかし崩壊した後の人格が、本来の彼なのかも知れない。彼は今まで縛り付けられていただけなのではないかと、よく思うんです。
彼は今、何を壊そうとしているのでしょうか。
出来ることなら彼の隣で、破壊の風景を眺めていたい。
微塵も容赦がない破壊に、恐怖は最早感じないものです。
自然を見ていれば分かるでしょう。
圧倒的な力で人の営みを壊し尽くす地球の姿に、人は恐怖よりも先に、ただ呆然と立ち尽くすだけだ。
彼を見ていると、夜空の雷を思い出します。
凪いだ海のように穏やかな人間が、その圧倒的な腕力に物を言わせ、他を蹂躙し尽くすんです。抗いようのない怒りは、まるで稲光のようだ。奪われた尊厳を取り戻すために怒りを振りかざす彼の姿と酷似している。
彼が何故、僕に意味を見出だしてくれたのかは分かりません。ですが、出来ることなら、彼とまた悪巧みでもしたいものです。
彼と僕の間には確かに、絆のような、細くも眩い糸のようなものがあると思っています。
彼の隣で、僕も自由を謳歌したい。
この頃、そんなことを考える日が増えました。彼は一体、どうしているでしょうか。
病棟の記憶 坂鳥翼 @i_ru_ru
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