第弍話 the reason
「紫ちゃんさ〜、学校行ってみない?」
そこは日本政府が管理する高層ビルの上層、その一室の応接間だった。高級なソファーやテーブルに、上品仕立ての絨毯。壁は完全防音、窓は狙撃にも耐えられる防弾ガラス。その場には似つかわしくない言葉に紫は一変の迷いも無く
「絶対に絶壁に完全に断ります!!」
満面の笑みを浮かべ即座に否定した。
「秒で断ったね〜、ねぇねぇ、なんでなんで学校行こうよ〜」
肩を揺さぶり承諾を促す。彼女の名前は芹沢紅香、腰まで伸びる綺麗な赤髪で顔は整っており、スタイルも良くいわゆる美人だ。そんな彼女は運動神経抜群、頭脳明晰で軽く殺意が沸くくらいの才能を持っている。そんな彼女の頼みを断ったり、軽く接する事が出来るのは紫くらいのものだ。
「勉強なんてしなくても知恵の神レベルの頭の良さをほこるし、何よりめんどくさいからです!!」
紅香はやれやれと肩をすくめると真面目な顔をした。
「そんなんだから君は好きな人もいない童貞なんだよ!」
紫もまさかこのタイミングでその事に触れられるとは思っていなかったのでかなりの動揺をみせた。
「そ、そ、そんな事関係「ある!!」……」
紫の言葉を遮り断言をする満足気な紅香。
「な、なんと!!最近の研究で紫ちゃんことホムンクルスは恋の力で強くなる事が分かったのだ!」
豊満な胸を張り、満足そうな顔をする。
対する紫はそんな満足気な紅香を見て面倒くさそうな顔をする。
「だから、俺を学校に行かせて恋をしろと?」
「そう!!おおまかにはその通り!!流石知恵の神!そんな君でも第六位階の異形には逃げ帰っただろう?」
「う……それはその通りだけどもズバッと言われるとかなりダメージだからね?ホムンクルスの心結構弱いんだからね?」
すると、紅香は紫の主張を完全に無視して自慢気に胸の間に挟んでいた資料を出すと、それを紫に手渡した。正直言って紫はその資料を胸に挟んでいた事の方が気になったし、ほんのり生暖かい資料にそれどころではなかったが、冷静を装って資料に目を通していく。
「失敗作のホムンクルスが一人で第三位階を倒した!?」
「そうなのだよ!そうなのだよ!それもかなり余裕でだよ!頑張れば第四位階も倒せちゃうんじゃないかな?」
第一位階は100人の兵士でなんとか倒せるくらいで、第2位階では軍隊でもなんとか倒せるレベルだ。そして第3位階以降は核兵器を使っても倒せない人類では勝てないレベルだ。故に人類はホムンクルスを作り上げたホムンクルスとは人工的にDNAを書き換えて神を作るという実験だ。それの勇逸の完全な成功作が紫だ。失敗作のホムンクルスでは第2位階以上を倒す事は不可能だった。部分成功作ならば個体によっては第三位階を倒すことは可能だったが、失敗作であるホムンクルスが第3位階を余裕で倒せる様になったとなれば成功作の紫ならば第10位階の上、最高位も夢ではない。
「ほ〜ら!恋の力はすごいだろう?」
「確かに凄いけどなんでそんな力がもっと前から知られてなかったんだ?」
こんな力があるのならばもっと前から知られていてもおかしくない筈なのに知られていなかったのは何故なのかという疑問が浮かぶ。
「博士に聞いたところバグ!」
「人類の未来がバグに助けられるとかどんな仕様だよ!?」
「まあ、それは置いといて学校に行く気なった?」
確かにその話しが事実ならば恋をするのもありだろう……だが、
「だが、断る!!!」
「えぇ!?なんで!!」
と紅香は大仰なリアクションをする。
紫はそれを軽く無視して話しを続ける。
「恋をするだけなら、別に学校行かなくても良いしそれに最終手段の惚れ薬とか使えばなんとかなると思うから!」
「そう言うと思って……」
すると、いきなり紅香はスカートの中に手を突っ込みノートパソコンを手に取った。
「ばーん!ホムンクルスの惚れ薬実験の動画!!」
「いや、それより毎回思うけどなんで変な所に入れてるの?普通に持つって言葉知ってる?」
そんな紫の突っ込みを完全に無視してポチッとなと言いながら動画を再生させる。
すると真っ暗だった画面に実験用ホムンクルス(失敗作)と書かれたモノが映り、「では、自我を持たない失敗作のホムンクルスにこの惚れ薬をぶっかけてみよー!!」と紅香の声が流れた。
「いや、何出演までしてんのあんた!?」
「えへへ」
と頰を赤らめながら言う
あんた一応日本政府のトップなんだから、もう少し大人になろうよと内心突っ込みを入れる。
そして動画は進み、途中謎の惚れ薬3分クッキングとか馬鹿みたいなのやってたけど気にしない気にしない。「では!遂にこれをぶっかけてみよー!!」
そしてやっと惚れ薬をホムンクルスに振りかけた。
すると、みるみるホムンクルスの身体が溶けていき
遂には液体になってしまった。
「ホムンクルスってどんな毒も効かないけど何故か惚れ薬を浴びると溶けちゃうんだよね!」
「いや、衝撃の事実ですけど!?」
紅香はニヘヘと紫の反応を楽しむ。
「じゃあ!学校行って見ようか!」
「え!?惚れ薬のくだりもう終わり!?そしてなんで学校に通うかの理由は全く説明されてないんですけど!!」
「だって、紫ちゃん強制させないと恋なんてしなさそうだし!」
事実今まで恋なんてモノしていなかったので何も言えない。。
「てことで!紫ちゃん、これは政府からの命令です!あなたは学校に行って恋してください!」
命令とまで言われたらもはや紫には返す言葉もない
だから、紫は不満気な顔をし、
「………らじゃ」
と答えた。すると紅香はいい子いい子〜と頭を撫でてきたので急いでその場から逃れるようにドアの前まで逃げた。
「え〜、もう帰るの?」
「当たり前だ!頭撫でられると心臓バックバックのピヨピヨになるって理由じゃなくて!純粋に帰るんだからね!」
紫は自分で自分の状況を話してるが、テンパり過ぎて何も考えられてないようだ。
「紫ちゃん、深呼吸した方が良いよ!(全く可愛い反応だな!もう!!)」
「すぅ、はぁ〜……ごめん、落ち着いたよ」
深呼吸をしてやっと落ち着いた紫はふとある事を思い出した。
「そういえば、東シナ区の結界ってどうだったの?」
「え?」
「いや、前なんか東シナ区の結界がなんたらって言ってたじゃん」
「あ、あぁ〜、なんでもなかったよ」
と少し顔を暗くさせた紅香だったが直ぐにいつもの笑顔を浮かべた。その行動に少しだけ違和感を覚えた紫だったが言及はせずに部屋を出た。
紫が去ってから少しの間静寂に包まれていた応接間だったが、紅香の護衛である黒髪ショートの雫により、その静寂は掻き消えた。
「紅香さま、恋の力なんて[嘘]何故ついたんですか?」
雫はいつのまにか紅香の隣に立っており、紅香はそれに何も反応せずに話しをする。
「雫も、東シナ区の結界が決壊されていたのを知ってるでしょ?」
「ええ、知ってます。」
と雫の返事を聞き、更に話しをする。
「第一級禁書の古文書[神判真偽]にはね、結界を張ったのは神だと記されている。そして、結界は第10位階でも破る事は不可能とも……」
淡々と話し続ける紅香の顔は悲し気だった。
まるで世界が今から終わるかのように……
「紅香さまは、最高位[魔王]が復活したと考えておられるのですね?」
と雫が聞くと、紅香は黙って頷く。
「最高位[魔王]を倒す方法はこの地球[ガイア]にはない、滅びるだけの世界だったらさ、最後くらい紫ちゃんにいい思い出を作らせたい……」
「だから、あんな嘘動画まで作り、紫さまに青春をさせようと学校に……」
紅香は悲しげだった表情を少しだけ綻ばせ
「うん、紫ちゃんにも同年代と楽しく過ごす気持ちを教えてあげたいからね!」
「紅香さまらしいですね、、」
と雫は言い、紅香と微笑み合った。
ホムンクルスの彼は学校で更に強くなってしまう様です?? ヒロくん @shimizuhiroto
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