第22話 夏フェス

高校生活初めての夏休みは、毎日がとても充実していた。



「終わるなー!!夏休みー!!」


屋上のフェンスに向かって、大声で叫ぶ僚一。

俺たちは夏休みも時々学校に集まってはいつものように屋上で練習をしていた。


「もうすぐ、夏フェスだな」

「ねー!楽しみ!!」


俺たちはRSRの日、高速バスで札幌まで向かうことになっていた。

はずだった。



「悪い。寝坊した」


夏フェス当日、約束の集合場所に現れなかったのはまさかの藤永先生だった。

途方に暮れる俺たちを置いて、無常にも高速バスは定刻通りに発車した。


「迎えに行くから」


そう言い残して、電話は切れた。


「迎えに来るって。待ってようぜ」


しばらく待っていると、一台のハイエースが目の前に停まった。


「お待たせー!」

「あれ?茅夏さん??」


ハイエースの運転席には茅夏さんが乗っていた。

助手席にややグロッキーな顔をして座る藤永先生が見える。


「あたしが運転するよ!陽ちゃん、免許ないんだよ」


茅夏さんは慣れた様子で運転していた。


「札幌まで4時間半くらいかな。寝ててもいいよ」


大示と郁奈が寝息を立て始めた頃、僚一がずっと気になっていたことを口にする。


「ねー、もしかして2人って付き合ってるの?」

「んー?そうだよ」

「マジ!?やっば!!」

「悪いかよ」

「別に悪くないけどさー。てか、ふじやん、顔色悪すぎ!」

「昨日、遅くまで飲んでたんだよ…」

「大人だなあ」


途中で休憩を挟みながら車は順調に進み、高速を抜け、札幌へと入っていく。

しばらくして、会場に到着した。


「駐車場激混み!!」

「こんなこともあろうかと、駐車券買っておいてよかったね」


無事に車を停め、いよいよ入場。

受付を抜け、腕にそれぞれリストバンドを付ける。


会場に踏み込むと、人の波の向こうに広大なステージが見えた。

これが夏フェスか。俺たちは一気に高揚感に包まれていた。


「みんな、お腹空いてない?」

「空いたー!!」

「じゃあ、まずは腹ごしらえしよっか」


茅夏さんの提案で、俺たちはテントサイトに行き、バーベキューをすることになった。テントサイトからでもステージがよく見える。何だこの幸せな空間。


「ステージは15時からか」

「ちょっ、いきなりDragon AshとガガガSPが被ってるんだけど!!」

「どっち見る?俺、Dragon Ash」

「えー、迷うな」

「その後のスネイルとモンパチとハイロウズも絶対見る!!」

「おう!全部見ようぜ!!」


俺たちはバーベキューを楽しんだ後、会場内を散策したり、グッズを見たりしながら思い思いに楽しんだ。


念願のステージはたまらなく最高だった。音の波に全身がまるごと飲み込まれるような感覚。俺たちは、この日のことを絶対に忘れずにいようと思った。

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音人 秋穂碧 @aioaoi

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