火花を刹那散らせ

卯月

ガン爺の宝物

『ボウズ。お前に、ワシの宝物をやろう』

 迷路みたいに曲がりくねった道を、ぼくは歩く。

 手にはランプと、ガン爺が死ぬ前にくれた、一枚の地図。


『ワシがまだガキで、ここのヤマの坑夫だった頃に見つけた物だ』

 ぼくらの町は、古代遺跡の遺物、ぼくたちの技術では絶対に作ることができない魔法の機械を発掘することで、栄えてきた。

 めぼしい場所は掘り尽くしたせいで、今はもう、住む人も少ないゴーストタウンだけれど。まわりのヤマには、昔の坑道があちこちに残っている。


『ガキのワシしかくぐれんような、狭い裂け目の向こうで見つけた、アレを。

 ワシは、親方に報告せんかった』

『どうして?』

『……綺麗だったからじゃ。誰にも、渡したくなかった』


 ヤマがさびれて都会へ出稼ぎに行ったガン爺は、ハクブツカンというところで、自分が見つけたのと似た物に出会ったのだという。

 ハクブツカンのそれは壊れていたが、アレは完璧な形を保っていた。まるで、今にも動き出しそうなくらいに。

 遺跡から出る物には、そういうことがある。何百年、何千年前に作られたかもわからないのに、表面の泥さえぬぐえばピカピカで、魔晶石バッテリィという別の遺物をはめれば使えるようになるのだ。


 ……魔晶石バッテリィがあれば、アレも動くかもしれない。


 それからガン爺は、世界中のヤマを転々とした。日雇いの稼ぎで希少な魔晶石バッテリィを買うのは、一生かかっても無理。だが、自分で掘り出すことができれば。

『それで、掘り出せたの?』

『ああ。だから、帰ってきた。

 ――じゃが、ワシはもう、ヤマへは行けん』


 町に着いたときは病気で、道端に倒れていたガン爺を、ぼくが見つけてうちに連れてきたのだけれど。

 この町には医者がいないし、うちには、ガン爺のために薬を買う金もない。

『ボウズ。お前に、ワシの宝物をやろう。アレを動かしてくれ。

 もし、動かんかったとしても、どうか、大事にしてやってくれ――』



 手にはランプと、ガン爺がくれた地図。

 少しの食料と魔晶石バッテリィを入れた鞄を背負って、岩でゴツゴツした坑道を歩く。地図のとおりなら、裂け目はもうすぐのはずだ。

「……あった」

 ぼくの体ならギリギリ通り抜けられそうな、狭い隙間。

 苦労してくぐったその向こう側は、さっきまでの坑道とは別世界みたいな、ツルツルした床と壁の通路だった。


『角を二つ曲がると、広い空間があっての。その、反対側の壁際に、アレが座っておる』


 通路を進んでいくと、天井の高い、広い部屋に出た。壁全体が淡く光っていたので、ランプがなくても、ぼくと同じくらいの大きさのが見えた。


自動人形オートマタ、というんじゃ』


 膝の上で両手を組んで、前かがみ気味に椅子に腰かけている。

 透きとおるような銀色の長い髪。白い肌。エメラルド色の硝子の瞳。

 服は古びて穴だらけだけれど、とても綺麗な女の子だった。


 しばらく、息をするのも忘れて見とれていたけれど。

「……動かす、ん、だよね」

 背中の真ん中に、魔晶石バッテリィをはめる穴がある、とガン爺が言っていた。何となくそわそわしながら、女の子の服の背中を大きくはだける。

 フタみたいなのを開くと、ヒビの入った石がはまっていた。それを外した穴に、ガン爺が一生をかけた魔晶石バッテリィは、ぴったりと収まる。その瞬間、


 バチバチバチッ

「うわっ!」


 魔晶石バッテリィの両端に、青白い火花が散ったのだ。慌てて手を離す。


「ふぁ~あ、よく寝た」


 ……女の子が両手を上げて、大きく伸びをした。

 それから、床に尻もちをついたまま固まっているぼくを見て、猫みたいに目を細めて笑う。

「君が起こしてくれたの? ありがと。

 ……って、何コレ!? 服ボロボロじゃない! どんだけ寝てたのよあたしは!」



 ガン爺。

 確かに、ものすごく綺麗だけれど。

 何か、思ってたのと違うよ。


Fin.

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火花を刹那散らせ 卯月 @auduki

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