雨傘

二十八

第1話

吉原をモチーフにしたよ乁( ´ ・ω・ ` )厂


雨の音がしとしとと鳴っている。その雨音は不思議と心を落ち着かせ和ませてくれる

傍らに置かれた長年愛用しているキセルに火を起こしゆっくりと煙を吸い込む

変にいきがってる年若い10代前半の女どもはキセルの扱い方がまるで分かってはおらずキセルを上向きにして吸い込むものだからよく刻みが落ちてきてむせ込んでいるがな

ふぅ.....と息を吐き出せば白い雲のような煙がくゆれては跡形もなく消えていく。ふと、キセルを見れば 彼岸花の華が彫刻されていることに気がつき暫し見とれる。あぁ、この華に惚れて買ったのにしばらくの間見てないものだ......


「今日は暇じゃ.....」


本来花魁には休みというものがないのだが、何故か今日は休みだと言い渡され、お陰で下女共や下っ端の遊女は街へ買い物へ出掛けた。まぁ 普段は許されないことだが、足抜けしたことに対しての報酬が怖い彼女らは必ず戻ってくるだろう。

キセルをもう一服吸い込み 煙をくゆらせる

雨音が静かに部屋に響く

ふと、もたれ掛かる机から顔を上げ部屋を見回す。別段、何をしたかった訳でもないが。

畳5枚ほどの座敷に簡素な机と 髪飾りや簪が仕舞われる大きめの鏡台 着物が仕舞ってある大きな箪笥 そして日常品を入れた葛篭

質素な部屋だが 割と気に入っている部屋だ...というかそもそも遊女一人に部屋が付くなど、余程働いて人気を稼がなくては出来ないことだから誇りに思う部分もある。下っ端の遊女なら大部屋にぎゅうぎゅうに詰め込まれるだけで 仕事の時も情緒に欠ける。

あちきも昔はそうだった

何をされるかわからないまま 村の子供の間引きで人買いに売られ 売られ 流れ着いたのがこの吉原だった

着いた時にまずされたのは顔の善し悪し確認

顔の良いものは遊女に 悪いものは下女に

あちきは 顔がよかったのか遊女になりんした

遊女になったものは 言葉遣いや男の悦ばせ方を姉様方から教わり 上客から金を毟るのだ

そうして 金を多く毟り より多くの嘘を吐き、人気を博した者が上の遊女に成り上がる


「この身も汚れたものよ.....」


色白な肌によく映える真っ赤な口紅と乱れのない自慢の黒髪

華奢な体に 甘い声

男どもは寄ってたかってあちきを指名する

吐き気がするような行為もなんなくこなした

1夜限りの虚しい時間

幸せだと嘘を付いて 遊び戯れ堕ちに堕ちる


この吉原の支配人も私を離そうとしたがらず年季が明けても返してくれる様子はない


ふぅ とまた一筋 煙がくゆる


そういえば希に 遊女と客の垣根を超えた男女が心中とやらをしていると聞いたことがある

その話を聞くとふと 羨ましいようななんとも言えない気分に侵される


あちきも一人の女としてみてもらいたい

1人の女として愛されたい

1夜限りの遊びじゃない 本来の愛を感じたい


なんて 無理な願いだが


その時 控えめに襖を叩く音が聞こえた


「姐様、入ってもよろしいですか?」

「えぇ」


中に入ってきたのは 簡素ないかにも町民、といった着物を着た若い遊女


「城下町へ遊びに行ったのでそのお土産を」

「ありがとう 悪かったわね..」


恐らく 自分よりも上の遊女にこうして媚を売っておけば後々楽だろうという考えだろう


遊女が恐る恐る差し出した 紙袋を受け取る


「では これで失礼します」

「あら、ちょっと待ってちょうだい」


さっと 遊女の顔がこわばる 何が悪い事をしたのではないか、そんな不安がありありと伝わってくる


「折角 来てくれたのじゃ 茶でも飲んでいきなさい」


そう朗らかに話しかければ 見るからに顔が歓喜に変わる


「はい!」


こうして 私は今も、明日も、その先もこの吉原にいる限り嘘を積み重ねては下っ端の遊女共に茶を啜っては今が1番だとのたまうのだ

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雨傘 二十八 @donbengaesi

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