Answer

彼と私が友人と呼べるような関係になったのは、去年の春あたり——委員会決めの時だった。


「滝さん、だよね? 同じ図書委員になった平野優人です、よろしく」

「よろしく、平野くん」


そんな今と大して変わらない挨拶から私たちは友人になったのだ。


私は昔から度々不思議な現象に巻き込まれることがあって、その度、同じ日を何度も繰り返した。

三年前、私には仲のいい、いわゆる幼馴染と呼ばれる男の子がいて、その時もいつものようにと言えるほど慣れてしまったループに巻き込まれた。

くだらない話なので、要約させてもらう。


幼馴染の男の子が、私が好きだった男の子が、違う女の子を好きで、その女の子が死んでしまうというループの中で気が狂って彼女と一緒に死んだらループが終わった。


まとめれば、これだけの話だ。

途中、私が首を突っ込んで、ループを知っているというだけで彼にこの不可思議な現象の犯人にされたり、そのせいで殺されかけたりしたこともあったけれど、たったこれだけの話だ。

ショックだった。悲しかった。怖かった。けれど、それでよかったと思った。

結局彼はループが終わった後記憶をなくし、その女の子と付き合って大団円。

私は彼とそれ以来話すこともなくなり、今はどうしているのかさえ知らない。

それでよかったと思った。


だから、これはいけないと思った。

平野くんは知らないと思うけれど、私は高校に入ってすぐに一度ループを経験している。

平野くんと出会って、友人となってすぐに。

そしてこれも平野くんは知らないと思うけれど、私はその時のループ中、何度も平野くんに助けられた。

そして、恋をした。

人間が恋に落ちる理由としては最も平々凡々なものだと思う。

しかしそれ故に、彼もまた平々凡々な理由で本堂さんに惚れていることに気づいてしまった。


それから今回のループだ。

はじめはループの起点となっているのが誰なのか、わからなかった。

平野くんがループ前の記憶を持ち越していることは二度目の朝に何となく察したけれど、彼が起点という訳でもない。

そして、二度目の夕方にやっと本堂さんの死が起点になっているのだと、そう気づいた、気づいてしまった。


幼馴染の彼のループと、酷似していると。


本当なら三度目の朝、平野くんと話をした時にループを終わらせる方法を告げるべきだったのだ。

けれど、臆病な私は、また幼馴染の彼と同じように、平野くんに拒絶されることが怖かった。

いつでも自分が傷つきたくないだけ。

三度目の夕方、平野くんは、本堂さんを助けようとして、自分が死のうとした。

本堂さんのために、命を懸けた。

私がループを終わらせる方法を告げなかったから、彼は自らが死ぬことを選んだ。

自分が傷つきたくない。自分は、傷つかない。


四度目の朝、私は平野くんに全てを告げることにした。

ループを終わらせる方法も、この想いも、全て。

欠けている記憶云々の話は、幼馴染の彼の時の経験から。

平野くんに拒絶されて、否定されて、恐れられて——あの時の幼馴染のような、そんな反応を、想像していたのに。

平野くんはいとも簡単に私を信じた。

あまつさえ、私が思っている以上に私を信じていると、そう言った。

驚いた。嬉しかった。信じられなかった。傷つくことを言い訳に逃げていた自分が、不甲斐ないと思った。


平野くんは本堂さんを選んだ。


私の思い描く最高のハッピーエンドだった。

本堂さんが生きていて、平野くんの想いが成就する。悔しくないと言えば嘘になる。

本気で好きだった。本当に、好きだ。

けれど、私のこの想いも平野くんはループが終われば幼馴染の彼がそうだったように忘れてしまうだろうから、私もこの想いを綺麗に忘れてしまうとしよう。

いつも、忘れることの出来ない私が、忘れてしまおう。


そう、私の思い描く最高のハッピーエンド、私の隣に、君はいないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハッピーエンドに君はいない 花座 緑 @Bathin0731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ