第86話

 火炎瓶を作成した友里は、少しだけ駆け足でショッピングモールの中央広場へと向かう。


 ここからはいつ吸血鬼が来てもおかしくはない。スマホの画面を確認しながら慎重に歩を進める。


______あと3,56秒で見回りの吸血鬼が後ろを通る。


 足音をたてないようにステップを刻みながら、角を垂直に曲がり、ついでとばかりに複雑な模様の絨毯の上にアルコールを振り撒く。


「うわっ、なんだこの臭い!!」

「アルコールの臭いだろ。誰かが掃除中にこぼしたんじゃね?」


 後方から聞こえてくる声を聞き流し、十分見回りの吸血鬼が離れてから、友里は次の角を曲がる。

 目の前には、大きく、きらびやかなガラス製のシャンデリア。明かりはLEDであるらしいが、まだ朝だと言うこともあり電気はつけられていない。


 埃を被ったシャンデリアは冷たく、寂しそうに金色の鎖によって天井に縛り付けられていた。


 それを見た友里は、無表情で機材の準備に取りかかった。


 ◇◆◇


「……上里町で、吸血鬼掃討作戦開始……?」


 名無しは自分のスマホを見つめて考える。


______友里は、これを知っているのか?


 少しだけ考えてから、友里のスマホをタップして電話をかける。


 プルルルル……プルルルル……


_____かからない。どういうことだ?。


 10コールほど呼び出しても、友里には繋がらない。名無しは軽く目を閉じて考える。


 友里がこれ吸血鬼掃討作戦を考えていなかったのか。いや。そんなわけがない。もし気がついていなかったとしても、この連絡を見たのなら、すぐに連絡をよこすはずだ。


 つまり__


 名無しはそこまで考えたところで走り出した。

 突然走り出す名無しに、周囲の人々が驚いたような表情を見せるが、名無しにそれを気にする余裕はなかった。

 たどり着いた結論に、名無しは舌打ちを打ちそうになる。


「友里は上里町に向かっているか、すでに上里町にいる……!」


 舞台に、演者は少しずつ集まっていた。

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魔女と吸血鬼 Oz @Wizard_of_Oz

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