「貴公らに物申す」

有原ハリアー

虐殺者

 赤い光が、夜の霧の向こうに見える。

 刻一刻と耀きを増し、金属音が連続して響き渡る。

 やがて光は、人型となった。

「さて、転生者よ」

 霧より出でし者。



 それは漆黒の鎧を纏いし、騎士であった。

 鎧には血管のように赤い光がはしり、騎士の感情に伴って明滅している。



「お前と“お前が守ろうとする者”、ほふり去ってくれる」

 騎士が見据える先には、一人の若い男と三人の美女がいた。

「どれほどの意思か、見せてもらおう!」

 騎士は大剣を眼前に構え、両手でつかを握る。

「くっ……流星奔流エターナル・スターライト!」

 男は右手を突き出し、魔法陣を展開して攻撃を仕掛け――



「遅い」



 一陣の風が吹いた。

おれはここにいるぞ」

 既に男の真横にいた騎士は、手にする大剣を振り終えていた。

 しかし、何ともなかった。



 代わりに、美女の一人が首を胴体から離していたのだ。一瞬ののち、ドサリと地に落ちる音が響いた。



「え……?」

 驚愕の表情を浮かべ、後ろを振り向く男。

「よそ見をしている余裕があるのかな?」

 更に吹きすさぶ風。

 やはり、騎士は男の真後ろにいた。再び響く、首の落ちる音。

「意識を研ぎ澄ませろ、女神より祝福された者よ」

 三度みたび、風が吹く。

 今度は男の正面に、騎士が立っていた。

 そして、またもや音が響く。

「気を散らすなら、おれが見せてやろう」

 騎士は男の膝を横から蹴飛ばすと、背後に回り込んで後頭部を片手で掴み上げる。



「見えるか? が」



 苦痛にもだえる男は、視界に“見たくないもの”を捉えた。

 そう。先ほどまで共にいた、三人の美女の死体を。



「さて、見せるものは見せた。次はお前だ」



 騎士は男を放り投げると、大剣を心臓に突き立てる。

「終わりだ」

 そのまま脳までを直線状に切り裂き、男の息の根を止めた。

「もはや女神の加護を受けて、そしてそれによって何度蘇ろうとも、あるいは滅びぬ身となっても……今やそれも叶わぬ。ヒトとして先にき、安らかにあれ」

 騎士は男の死体を確認すると、夜の闇に紛れて消え去った。


     *


「これで“覚悟無き者”がまた一人、あるべき結果を迎えた」

 大剣を肩に担いだ騎士は、一人呟いていた。

「かつておれが屠った者の中には、新たな生をけ、新たな使命に目覚めた者もいるだろう。それは立派なことだ。しかし」

 言葉を切り、夜空を仰ぐ。



「一度死んだ者は、どのような死にざまであったとしても、蘇ってはならない。まして自ら生を放棄した者は、安易な道に逃げようとする者は、自らの決断に責任を負うが道理だ。“女神よりの力”とやらを得ても、“死んだ”という『結末』や“責任を負う”という『道理』をじ曲げることはあたわず」



 騎士は大剣を担いだまま、新たなる“転生者”を探していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「貴公らに物申す」 有原ハリアー @BlackKnight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ