この作品には前作『いつか、咲きほこる花の下』があります。
未読であれば読んでいた方がいいとは思いますが、単独でも十二分に楽しめる内容です。
異なる二つの種族の対立。迫害と殺害も辞さない排斥。他者を同じ生き物とも思わない、そうした壮絶な時代の中で、懸命に生きる若者たちを、この作品では対立の中心に突然巻き込まれた主人公・ユズの視点で描かれています。
それまで全く関わりのなかった世界。疑問を持っても目を塞いできた人々の対立を、自分の親族のこととして、突然見聞きし、自分のこととして向き合わなければならなくなった主人公と、彼女を通して見る、カゲという組織を構成する若者たちの生き様が壮絶で、読んでいるうちに彼らの息遣いを身近に感じるようになる、前作を知っていると、世界観をさらに彫り込まれた作品でした。
壮絶なシーンもありますが、それは作者様の描写の力。途中、主人公が舞いを披露するシーンは、必見です。とてもとても美しい映像を見ることができるでしょう。
テゥアータ・サーガの2作目ですが、勿論本作を単独で読んでも世界の情勢、動きなどは描写されているので問題ありません。
本作は、主人公ユズが、兄の謀反をきっかけに、過激派集団「狩人」に狙われてしまうところから始まっている。
助けてくれたのは、世間一般では謀反人の集団であるとされている「カゲ」と呼ばれる者達で、図らずも軟禁状態となってしまった。
そこでユズの目にしたものは、恐ろしき謀反人たちでなく、ごくごく一般的な、むしろ優しい感情を持つ者達の姿だった。
兄は本心から謀反を働いたのか?
カゲはなぜ、世間にあらがうのか?
テゥアータ人とは本当に恐怖の対象として見られるべき人達なのか?
ユズが新たに知っていく「本当の姿」は、彼女をどこへ導くのか?
この物語を読み終えて楽しめた方が、まだ前作「いつか、咲きほこる花の下」を未読であれば、ぜひ読んでいただきたい。
そしてもう一度本作を読めば、違ったものが見えてくるだろう。