かっぱえびせん「だれか止めてぇぇぇぇぇ!」

ちびまるフォイ

ダッシュダッシュダ~ッシュ!ダッシュ&ダッシュ♪

コンペ会場はにぎわいを見せていた。

これから始まるプレゼントを世界が注目していた。


「みなさま、今日はお越しいただきありがとうございます。

 ではこれから次世代の歩行サポートマシン『Walk』をご紹介します」


会場に何か運び込まれるではとカメラを構えていた取材陣だが、動きはなかった。

司会者は狙い通り、としたり顔をする。


「みなさん、実はすでにあるんですよ。ほらここです。

 実はすでに私がつけていたんです」


男はズボンのすそを上げると足にパーツがついていた。

一斉にフラッシュが焚かれる。急な小説フラッシュの明滅にご注意ください。


「服の下につけても、つけていることがわからないほどの薄型!

 それなのにバッテリーは1分充電で24時間稼働できる!

 これをつけておけば、足腰が弱った高齢者もアクティブに散歩を楽しめます!!」


キュィィィィン。


「あの、質問良いですか」


「はいどうぞ」


「なにか音がしているようですが?」


「え?」


それだけ言い残して、司会者はカメラの外にフレームアウト。

一心不乱に走り出した。


「うわああああ!! 誰か!! 誰か止めてくれーー!!」


男は走り続ける。

足に取り付けられた機械が電気信号で強制的に走らせる。


『博士!! 博士、聞こえますか!?』


「助手くん!!」


『プレゼン中継を見てました! いったい何が起きたんですか!?

 めっちゃ急にトイレに行きたくなったんですか!?』


「そんなわけあるか! 足に取り付けたWalkが暴走したんだよ!!」


『そんな!? なんとか止まれませんか!?

 必死に足を止めようとすれば何とかできませんか!?』


「む、無理だ! 足を止めようにも機械の力が強すぎる!」


『とか言っちゃって~~。ホントは?』

「お前さっきからふざけてんな」


頭の中で解決策を考えながらも人のいない場所を選んで走り続ける。

機械制御によるスピードは相当なもので、人とぶつかればどうなるか。


『博士、こちらからの信号も受け付けません!

 減速もできません!』


「だが、もしこのまま私が疲れて……はぁはぁ、止まったら……。

 いったいどうなるんだ!?」


『足は博士の体力おかまいなしなので、引きずられますね』

「死んじゃうよ!!」


『そっちにラグビー部を派遣しました。力づくで抑え込みます!!』


「お、おお! よろしく頼む!!」


博士はスマホに送られた座標に向かって走っていく。

正面には屈強なラガーマンが控えていた。


「っしゃ!! 全員で止めるぞ!!」

「「「 おおぉーー!! 」」」


男たちは低い姿勢から刺さるようなタックルで体にぶつかった。

けれど、ラガーマンを引きずったまま男は走り続ける。


コンクリートにこすられ続けて発火したラガーマンたちは早々に帰っていった。


『博士! どうでしたか!?』


「だ、ダメだ!? 大人何十人もの力でも止められなかった!!」


『発表前に1億馬力くらいにしたのがまずかったですね……』

「原因お前かよ!!」


『博士、今度はもっと強いラガーマンをAmazonから届けてもらいます!』


「いや、もう人の力じゃ無理だ!!

 こうなったら、車でもなんでもいい、私をはね飛ばしてくれ!」


『博士! いくらプレゼンが失敗したからといって、

 転生トラックで異世界に逃げ込むなんて考えないでください!

 博士のような陰キャが別世界に行っても同じ結果ですよ!!』


「ちがうわ! 衝突の強い衝撃で機械を壊すんだよ!」


『わかりました! すぐに転生トラックをAmazonで手配します!』


「それもあるの!?」


再び助手から送られてきた交差点に向かって進路を変更。

交差点を渡った先に助手が腕を振っているのが見える。


「博士! 今です!!」


スピードを緩めずに交差点に飛び出すと、視界の外からトラックが突っ込んだ。


が。


バンパーが体に触れるか触れないかのところで足が自動的に反応しさらに加速。

ひらりとトラックとの衝突を避けてしまった。


「んなっ!?」


「し、しまった! 衝突回避センサーが入っていたんだ!!」


助手の横をすり抜けて男はまた猛進していく。

そうして走っているうちにじわじわと男の体力は蝕まれていった。


『博士……博士、聞こえますか!?』


「ああ……聞こえてる……疲れてるから……あまりしゃべらせるな……」


『わかりました、それじゃ僕がしゃべりますね!

 実は昨日、飲み会に参加したんですけどそこにいた女の子が超タイプで。

 フレミングの左手の法則を鼻に突っ込んだら天井からそうめんが落ちてきて――』


「しょうもない話はいいから解決策を出せよ!!」


助手をしかりつけると、酸素がごっそり減って息が荒くなる。


『博士!! しっかりしてください!!』


「お前の……お前のせいだ……はぁはぁ……。

 このまま、だと……どうなる……バッテリーが尽きるとか……ないのか!?」


『太陽光充電なので半永久的に動いてしまいます。

 それに今日のプレゼンのために、しこたま充電してあります』


「うそだろ……!?」


最悪バッテリーが尽きるまで走ることも覚悟していたが、

完全状態のバッテリーがなくなるまでの時間を耐え抜く自信はない。


「なんとかならないのか!?」


『博士、とっておきの方法があります!!』


「何か仕掛けがあるのか!?」


『会場まで戻ってきてください!』


通信はそこで切れた。

男はもう頼れる人間も思いつくアイデアも、走り続ける体力もない。


最後の望みをかけて会場へと走って戻っていった。


会場にはまだ人が残り、ステージには助手が待ち構えていた。


「博士!! こっちです!!」


「バカ! 前に出るな! 衝突回避といっても、完璧じゃない!

 このままじゃぶつかる!!」


「大丈夫! 僕の胸に飛び込んでください!」

「気持ち悪い言い方をするな!!」


博士はそのまま助手の方へと向かっていく。今にもぶつかる瞬間。


「博士! その場で逆立ちしてください!!」


「え、ええ!?」


声に反応して手をついて逆立ちをした。

前に倒れそうな体を助手が支える。


足は地面を探すように空をもがくように回る。


「やりましたね、博士。止まれましたよ!」


「ああ、逆立ちとはいえ、この状態ならちょっと休める」


「今の内にはずすんだ!!!」


助手のひと声で控えていたエンジニアが一斉にかけよる。

ピットインしたF1を直すかのような手さばきで機械を外してしまった。


会場からワッと拍手が巻き起こった。


「えーー、みなさん、逆立ちパフォーマンスはいかがでしたか?

 はぁはぁ。いろいろトラブルはありましたが、

 紹介したい性能は嫌ほどご覧になれたかと思います。

 出資いただける方は、ぜひお声がけください」


と、司会者が締めくくると、再び拍手に包まれた。


「いやぁ、君は本当にすごいね! あんなの初めて見たよ!」

「ぜひうちでプロデュースさせてくれないか!?」

「いやいや、彼とはうちが契約するんだ!」


プレゼンが終わってからすさまじい反響となった。


「ああ、今まで一生懸命に開発しててよかった……!!」


男はこれまでのエンジニア人生を振り返って涙を流した。

そして、契約を勝ち取った。






その後。


「テイクユアマーク」


博士は契約先のオリンピック強化選手代表として、

長距離ランナーの世界選手権に出ていた。



「最高のプレゼンだったよ! あそこまで走り続けられる体力、素晴らしい!

 ぜひうちで世界一のアスリートになってみないか!?」

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