小説デミー大賞のシークレット枠

ちびまるフォイ

受賞、おめでとうございます!

「今回の小説デミー監督賞は

 『怪獣に恋をして巨大ロボットで告白3秒前』です!!」


会場は拍手に包まれ、作者は壇上へとあがった。


「監督賞の受賞、おめでとうございます。

 作品はもちろんのこと、応援コメントでの丁寧なやり取りも

 小説デミー会員には大変に高評価での受賞となります。

 この栄光を誰に届けたいですか?」


「これまで応援してくださったすべての読者さんに!」


その後、小説デミー大賞に輝いた作品たちは瞬く間に

スポットライトの下に引きずり出され、跳ね上がるアクセス数に作者たちはご満悦だった。


「うう、おのれ……来年こそは……!!」


今年の力作『異世界ギルドで奴隷商売はじめました』は見事に落選した。

作品賞にノミネートしていたのに、名前すら出てこなかった。


もとは自主企画の延長ではじまった小説デミー大賞だったが、

徐々にその目利きの力が評価されて注目度は上がり、今ではオバケ賞レースになっていた。


"サイトに来たら、まず受賞作を読め"


が、テンプレになるほど。

そんなわけで次の自信作『フォトショップで異世界攻略』を2秒くらいで書き上げると、

小説デミー大賞の受付へと持ち込んだ。


「こんにちは。会員の登録ですか? ノミネートですか? それとも、わ・た・し?」


「ノミネートです!」


「かしこまりました。どの賞にノミネートしますか?」


「とにかく全部!! 全部にノミネートしてください!

 どこかに引っ掛かりさえすればいい! 小さな賞でも取れれば人気作なんだ!」


「ええっとですね……」


受け付けは困ったように資料をめくった。


競争率の低い、誰も知らないような賞でも、取れさえすれば

小説のトップに『小説デミー大賞 ○○受賞!』とか大げさなことが書ける。


「すみません、すべての賞にノミネートすることはできません。

 1つだけノミネートできない賞があるので。

 この賞は小説デミー会員側での登録が必要になります」


「あーー、じゃあ、それ以外全部にノミネートしておいてください!」


「かしこまりました」


小説デミーへのノミネートを済ませると、来年までコールドスリープを決めた。

人間の才能は年を取るほどに劣化してしまう。

一番旬の時期の自分をキープすることが一番大事。


カプセルから出ると、そこはもう小説デミー大賞の来年会場。


「それでは今年の小説デミー大賞を発表します!!」


・監督賞:『すまばと:スマホ擬人化バトルロイヤル』

・作品賞:『極道卓球』

・脚本賞:『狼女が不法侵入して家での潜入24時』

・イノベーション賞:『奇数ページだけ読む小説』


 ・

 ・

 ・


「なぁーーい!!」


俺の作品はノミネートすら忘れ去られたようになくなっていた。

肩を落として会場を去ると、会場の外には発狂している人や、

あらん限りの罵倒を続ける人、落ち込みすぎて頭が地面に埋まっている人などがいた。


「大丈夫ですか……?」


「大丈夫なわけあるかい。なんであんなゴミが表彰されて、僕の神作が評価されないんだ。

 会員はなにを読んでいるんだ。くそぅ……」


「俺もですよ。今年もダメでした。全部の賞にエントリーしたんですけどね」


「は? 君はバカか? 全部にエントリーしたらそれこそ落ちるに決まっているだろう」


「なんでですか?」


「会員はどこの賞に何がエントリーされているかわかるんだぞ。

 いっぱいエントリーしてたら"こいつ見境ないな"と印象が悪いだろ」


「簡単に言うと」


「誰でもいいから付き合いたいです! 付き合ってください!

 ……といわれるようなものだ」


「なるほど」


確かに印象は悪い。

来年は賞をマイナーなものに絞って、とにかく狙いに行く作戦にしようと絵馬に書いた。

『異世界と異世界がぶつかって戦争になった交渉人』を書き上げた後、来年までスキップ。


タイムマシンから出ると、そこはますます賑わいを見せる小説デミー大賞会場。


「それでは! 今年の小説デミー大賞を発表します!!」


「来い……来い……来い……!!」


今年はマイナー賞に照準を絞ってのエントリー。

競争率が低ければ何かにあたるかもしれない。


・短編構成賞:『創国3分クッキング』

・現実的で賞:『家族が原因で人間不信待ったなし』

・どうで賞:『水曜』

・個性デザイン賞:『私服がダサい冒険者ギルド』


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


俺はキーボードをたたいて壊した。外れたキーが散らばっていく。

今年もダメだった。マイナー賞に絞ってもダメだった。


ここまでハードルを下げたのに受賞できないと、もうプライドがもたない。


「このまま応募して落選し続けたらストレスで死にそうだ……。

 なんとかして受賞する方法はないものか……」


考えながら次回作『小説デミー大賞しねしねしねしね』を書き上げてノミネート受付へ行く。


「こんにちは。会員の登録ですか? ノミネートですか? それとも――」


「あっ」


そこでひらめいた。


「会員の登録でお願いします」

「かしこまりました」


別の人に俺の作品は後日ノミネートしてもらい、俺は会員登録を済ませた。

どうして最初からこの方法を取らなかったのか。


全部の賞にノミネート(実際は1つ除く)したり、

マイナー賞だけ狙い撃ちしてみたりするよりも、

会員になって自分の作品に正当かつ平等で公平な評価を入れればいいだけだった。


「それでは、この作品から選んでください」


会員にはノミネートされたたくさんの作品が渡される。

タイトルとあらすじだけ読んで勝利を確信。やはり俺のほうがおもしろい。


評価シートにはすべて自分の作品を記載して提出した。

いっぱいコピーしてたくさん送ったので、数でも圧倒できるはずだ。


来年の小説デミー大賞が開催される。


「みなさん、お待たせしました! それでは受賞者を発表します!」


ドラムロールが鳴って会場が緊張感と尿意に包まれる。

スポットライトが差したのは――



「『小説デミー大賞しねしねしねしね』作者さんです!!」



ワッと会場の視線が俺に集まった。


「それではステージへどうぞ!!」


ゆっくりとかみしめるようにステージへの階段を上っていく。

ついに評価される日が来たんだ。


「おめでとうございます、今のお気持ちは?」


「すごく光栄です。やっぱり自分のやってきたことは無駄じゃなかったんだと思います」


「今の気持ちを誰に伝えたいですか?」


「実家の母の隣の家のおばさんのいとこの娘の友達に!!」


会場から割れんばかりの拍手が送られた。


「小説デミー会員が全会一致であなたの作品に入れていました。

 圧倒的な票数での獲得となります」


「本当ですか、うれしいです!」




「 『不正工作賞』の受賞、本当におめでとうございます!!! 」

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