王殺しの騎士

暗黒界の野良犬

第1話




遠い遠い昔...


鉄の技術と呼ばれるものが進歩し、世界は平和で永遠に人類は繁栄し続けると思われていた。

だが、人類は繁栄に使う筈の鉄の技術を衰退に使ってしまった。

しばし時は過ぎ、人類の7割が生き絶えた時、更なる悲劇は起こった。世界が黒い影に包まれたのだ。

黒い影は全てを破壊し世界を飲み込んでいった。

そして世界は破滅するだろうと思われた時、5人の勇者達が現れた。1人は水を操り、1人は大地を操り、1人は風を操り、1人は炎を操り、最後の1人は光を操った。

5人の勇者は黒い影を討ち滅ぼし、元凶である魔王を倒した。

5人の勇者は後に残った人々にオドを託し、それぞれの国を作り、王となった。

死ぬ事もない、永遠の時を生きる王達は、平和になった世界、人々を導いた。そしてそれは今も続く。





ーーーーー





ある森の奥深く、そこに大きな壁で囲まれたとても豪華な家々が立ち並ぶ街があった。

その街に住む、この街で生まれ育ってきた少年は、 もう寝る時間だというのに、家の暖炉の前で積み木を使って遊んでいた。

眠そうな目をこすりながら積み木で遊んでいる少年を、母親は椅子に座って編み物をしながら暖かい目で見つめた。


「遅いわよ。もう寝なさい」


母親が少年に言う。


「もうちょっとしたい」

「駄目よ。もう夜遅いんだから」

「むぅ」


少年は頬を焼いた餅のように膨らませながら母親を見る。


「そんな可愛い顔しても駄目」

「はぁい」


少年は名残惜しそうに積み木を見ながらそれを仕舞う。

そして、彼はずっと前から思っていた疑問を思い出した。


「ねぇお母さん」

「どうしたの?」

「僕たちはどうして壁の外に出ては行けないの?」


この街には、街の外に出ては行けないという掟がある。

少年はこの掟がある事に疑問を感じていた。


「うーん、外には沢山の魔物がいるから...かな?」


母親のはっきりしない答えに、少年は心の何処かに霧のような重くもやっとしたものが出来るのを感じた。


「はっきりしてないの?」

「そうなのよ。お母さんにも分からない。わかる事と言えば...」

「?」

「魔力を作ったり、体を強くしてくれたりするオドは分かる?」

「うん」

「この街に住む人達はみんなオドを身体に宿して無かったり、オドを宿していても魔力を作れなかったりする人達なの」

「そうなの?」

「そうよ。オドが無いととっても困るの。だから王様達は生活に困るだろうって私達を保護してくれてるの」

「そうなんだ。やっぱり王様っていい人なんだね!」


大きな笑みを浮かべた少年を見て、母親も笑みを浮かべながら


「そうよ」


と言って少年の頭を撫でる。


「それじゃあ寝ましょうね。明日貴方がこっそり掘っっていた大穴を埋めないといけないし」

「えぇ...あれ埋めちゃうの?」

「だって...」


母親は溜息をしながら呆れ顔で窓の方を見る。


「大人1人が丸々スッポリ入っちゃうあの大穴に、誰かが落ちたら駄目でしょ」

「蓋すればいいのに...」

「駄目。そもそもあの王様達から頂いた町に勝手に穴を開けてそのままにしていたら、王様達から怒られるわよ」

「そっかぁ...じゃあ仕方ないかぁ...」

「さぁ。寝ましょう」


母親は椅子から立ち上がると寝る為の準備をし始めた。





ーーーーー





朝早く、まだ太陽が町を照らし始める少し前に少年は目が覚めた。


「ふわぁ」


大きなあくびをしながら、少年はベットから起き上がる。そして周りを見渡しながら、


(そういえば、僕が作ったあの大穴今日埋めちゃうんだ...)


今日自分が長い年月をかけて作った大穴が、埋められる。そのことを思うと、


(最後くらい入ってもいいよね)


抜け出して入ることにした。


「よいしょっと」


ベットから降りもう一度あくびをしながら背伸びをすると、トイレを済ませ寝間着姿のまま外に出る。

外に出るとあの大穴に向かう。

物陰で密かに掘り続けた大穴に行き、梯子を使い中に入ろうとすると、突然空が明るくなった。

驚いた少年は空を見渡すと、空に5人の人の様なぼやけた〝なにか〟が浮いていた。

その〝なにか〟のぼやけた輪郭が少しずつしっかりとして行く。

そしてそれは、少年の見たことのある存在になった。

それは、世界を守った勇者であり、人々を導く存在である5人の王達だったからだ。


(王様達だ! すごい...本当に凄い! でもなんでこんなところにいるんだろう?)


少年は興奮しながら、王達に話しかける。


「おはようご」


ざいますと、言おうとした時、轟音とともに少年に向かって、猛烈な速さの風が飛んできた。

少年はそれを避けようとしたものの、吹き飛ばされ、たまたま大穴の中に入ってしまう。


「ゲホォ! ゲホォゲホォ! なんで...なんでこんなことに...ゲホォ!」


吹き飛ばされた時に宙に舞った誇りを吸い込み、少年は何度もむせ返る。

そして、何故自分が吹き飛ばされたのか問おうと外に出ようとする。

しかし...


「え...嘘...嘘だ...嘘だよねこんなの!」


空には無数の火球が浮かんでいた。

次の瞬間、その火球の全てが流れ星のように落ちてきた。

火球の炎は、街にある無数の家々を燃やして行く。

燃やされている家の中にいる人々の叫び声が蝉の声のように、町中に響きわたる。

少年はその様子を穴の中からすこし顔を出して見ていた。


「嫌だ...嫌だよこんなの...」


だがそれも、燃えている自分の家の壁が倒れて穴が塞がれる事でできなくなった。

倒れてきた直後、少年の耳にききなれた人物の叫び声がしてきた。

母の声だ。

必死に自分の名前を呼んでいる。

少年は嫌になり、目を閉じ、耳を塞ぐ。


(こんなの夢だ。こんなの夢だ。こんなの夢だ。こんなの夢だ。こんなの夢だ!)


心の中で必死に叫ぶ。

だがそれは、氾濫した川の流れを1人で塞き止めようとすることと等しく、無駄で、どうしようもないことだ。

穴の中の酸素が薄くなっていく。

だんだん意識が遠のいていく。


(ああ、僕も死ねるんだ。よかった...)


そう思った時だった。


「悪いが、死んでもらう訳にもいかんのでな。これが終わるまで、眠ってて貰うぞ」


聞き覚えのない女性の声が聞こえて、暖かいような何かに包まれながら、少年の意識は途絶えた。





ーーーーー





その頃、街の上空...


「焼き払いは終了。風神、風を消して」

「了解」

「水神、消火よろしく」

「了解。で、これが終わったら地神が森にし直すんでしょ? 光神?」

「ああ。そうだ」


その場にいる5つの〝神〟はそこの街...いや街だったところを見下ろす。

水神による消火が終わり、地神が火事によって荒れ果てた地を手品のように密林へと変化させる。


「できたよ。後は光神が結界を解除すれば完了」

「...」

「光神?」


街だった密林を見ながら、難しい顔をする光神を見て水神は首を傾げる。


「光神? 大丈夫?」

「あぁ...大丈夫だ。結界を解除する」


光神が結界を解除する。


「ではマスターの元に帰るとするか」

「そうだね」


5つの〝神〟はその場を飛び立っていく。

その時、光神が、自身が感じた違和感を全員に報告し、確認をしていれば彼らの、人類の栄光と繁栄は永遠に続いていただろう...


全てが狂う時は、まだ遠いところにあったが、桶の水が自然と蒸発していくように刻一刻と確実に近づいていた。










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王殺しの騎士 暗黒界の野良犬 @norakuro2002

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