メルゴオル
安良巻祐介
相当な年代ものであるその四角な箱には、どの面にもびっしりと、地獄の獣たちの行列と饗宴が描かれてある。
それらは立体地図上の山脈のごとく、形に合わせてわずかに起伏していて、瘡胞のある肌のようにも見える。
古い品の筈なのにどのような仕掛けか、暗がりに置くと、怪物どもの目がぴかぴかと光りもする。宝石でも嵌めこんであるものか。
また、夜になると内側から何かブツブツとつぶやくような音もするという。
箱と言うからには、何かが中に入っていることは間違いない。
しかし、その蓋は開けられない。
というより、開けた者がいない。
いないのだから、中に何があるのだか伝わりようがない。
これだけ長い時代を経てきた物品なのに、誰も試みなかったというのは信じがたいが、しかし事実、誰も中身を知らないのだから、そう考える他ないのだ。
……本当のところ、開けようとした者はいたのではないか。
いたけれども、いなくなってしまっただけではないのか。
それは誰もが薄々と考えていることではあるが、口には出さないのであった。
メルゴオル 安良巻祐介 @aramaki88
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