第33話 クエストクリア
俺が目を覚ますとそこには随分と年季の入ったのテントの天井が見えた。
「知らない天井……ここは一体……」
「やっと目が覚めたかこの脳筋勇者」
お決まりのセリフを吐いていると、当然だが何も知らないキリルは呑気に挨拶をしてくる。
「いいかいキリル。これはお約束みたいなものなんだ。だから、俺はこの時をもう少し味わって、感慨に耽っていたかったのに。それなのに俺の相棒はなんて使えないんだ」
「そういうのは思っても口に出さねぇのが常識ってもんなんじゃねぇか?」
俺が寝ているベッドの隣で読書をしていたキリルはいつもの調子でそう答えた。
まぁ、異世界でこのネタが通じるわけもないか。などと考えていると段々テントの入り口の外が騒がしくなってきた。疑問に思った俺はキリルに質問してみることにした。
「今日は何かお祭りでもあるの?」
「ねぇな。ただ、カグラが目覚めて全員揃ったわけだからここの連中が祝いの席でも開こうとしてるんだろうよ」
「全員……」
その言葉で俺は今まで忘れていた大事なことを思い出した。
「そうだッ! 先に逃げた騎士団のみんなと子供たちは!?」
俺たちが守ろうとしていた人たちの安否だ。
「落ち着け、そんなに激しく動いたら肩の傷が開くぞ。とはいえ、気になるのも無理はねぇ。てめぇの夢にかけてもな。まぁ、結論から言うと全員無事だ。【カレキ山】の麓にあるここ。カルダッカ騎士団のキャンプで保護されているらしい。ガキどもは明日にでも【首都ブルノイユ】に帰れるはずだ。これで満足か?」
「よかった〜……って、いてててッ!」
ベッドの上でいきなり起き上がり、安堵してはすぐにベッドに倒れ込む。当然だが、こんなことをしていれば傷口が開くというものだ。キリルの忠告を無視した俺が悪い。
「だから、言っただろうが! 今、包帯巻き直すからこっち来い」
「いやー助かるよ。キリル! 俺からしたら全部ぐるぐる巻きでどこがどうなってるのかさっぱりわからないからね!」
「テメェ……ドヤ顔してる暇があったらそのご自慢の肉体でとっとと治してくれよ」
「まぁまぁ、そういうわけにもいかなくてね。って、それならあの回復魔法をキリルが使ってくれれば良いじゃんか!」
「アァッ!? こちとらまだ魔力不足で頭はクラクラで、戦闘中は集中しすぎて神経焼き切れるかと思ったわ! この脳筋が! 少しは俺に配慮して避けろよ! 全部俺が計算して当たんないようにしてやってるんだぞ。少しは感謝しやがれッ!」
「痛って!」
勢いよく言い終わり最後は雑に包帯を巻くものだから、傷口に少し響いた。
「……泣きそう」
「うっ……わ、……」
「まぁ、嘘なんだけどね!」
テヘッ
俺はわりと可愛くポーズをとりながら謝った。
そして、これからどうするか。
そのことについて少し考えなければいけない気がした。
まずはキリルに事情聴取をしないといけない。
まだまだキリルには聞きたいことがたくさんあるしな。メイリー団長のこととか、
カツ丼を用意してもらいながらメイリー団長と一緒にやるのも良いかもな。
そんなことを考えていると視界の隅に小さく震えているキリルの姿が見えた。
「どうしたの? お腹でも壊した?」
「テメェ……ぶっ殺す!!!!!」
病室にも関わらず剣を振り回すキリル。
怪我人であるにも関わらずドタバタと逃げ回る俺。
ワイワイとクエストクリアを喜ぶように日々の楽しさを噛みしめる。ただ、そこには予期せぬ強敵が潜み隠れているものだ。
ゆっくりと開かれる病室にされているこのテントのカーテン。
いやでも視線をそちらに向けなければ死ぬ。そんな緊張感がこのテント一帯に漂っていた。
ギギギと音が聞こえそうなほどに緊張しながら俺たちが見た先、カーテンの隙間から覗いて見えたのはまさに……
「「――お、鬼だ!」」
「私が鬼であってたまるものか! 私こそはカルダッカ騎士団が団長、メイリーだ。このバカどもが! それだけ暴れ回れるのであれば、貴様ら二人とももう体調は万全で間違いあるまいな?」
「たすけt……」
「今から団会議だ。貴様らにも出席してもらうぞ」
問答無用。メイリー団長に首根っこを掴まれた俺たちは大人しく引っ張られていくのだった。
「ところで、祝いの席の方は? 私もうお腹ペコペコなんだけど」
「カグラ。何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです」
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――【カレキ山】の麓、カルダッカ騎士団の拠点本部。
「おや、メイリー団長。彼らはもうよくなったのかい?」
そういうのは俺たちもお世話になったカルダッカ騎士団の副団長リュートさんだ。
「ええ。元気に走り回っていたので問題ない。そうだよな?」
俺もキリルも無言でコクコクと頷く。そして、勧められるがままに腰掛けいつの間にか話し合いの場に立たされていた。
おかしい。こんなはずじゃなかったのに!
だって、小難しいことは全部キリルに丸投げスタイルの俺がどうして!
そうして周りのメンバーを見たときに俺は全てを察した。
団長のメイリーをはじめ、副団長のリュートさんに俺たち。そして、もう1組いた。今回の騒動に大きく関係している奴らが。
「いやーカグラさんたちが来てくれて本当に助かりましたよー! 流石のマリアちゃんもジェシーさんと団長たち相手じゃキツくてキツくて今にも吐いちゃいそうでしたから! 今回の件たくさんお世話になりました。本当にありがとうございました。って、ほらジェシーさんもお礼を言ってくださいね」
「あはは」と笑う彼女のことを誰が忘れようか。そう苦労人のフード女ことマリアちゃんと――
「……助かった。感謝している」
案外素直なお坊ちゃまのジェシーだ。
この6人が集められた。それもパーティの前の一番楽しい時期に。
「まず君たちをここに集めたのは他でもないこの俺、カルダッカ騎士団副団長のリュートだ。わざわざ忙しい時間にお呼びしたことは悪いと思っているが、いち早く事態の収束をしたほうがいいと思ってね」
つまり、今回の一連の騒動の流れの解決だろう。特に鍵を握っていそうなのはメイリー団長とキリルだ。幻想魔人楽団、通称――幻魔団や数々の事件通しのつながりが見えてこない。
「まずは私から話をさせてほしいです!」
そう言って立ち上がったのは――まさかのマリアちゃんだった。
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