第32話 討伐

 俺は放り投げた短剣と身に纏っていた外套を手に持ち、シルバーエイプと戦った時と同様にそれらを放り投げてダミーを作り出した。


 女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットはダミーに一瞬ばかり気を取られたが、未だ空中にいる俺のことを睨み続けている。


「はは……そう上手くはいかないよな。まぁ、こっからが本番だ!」


 次に俺は弓と矢を手にし、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットとの距離が縮まるまで打ち続けた。奴はそれらの攻撃を防ごうともせず、俺の放った矢は外骨格に弾かれていくだけだった。

 当然、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットにダメージはないだろう。

 だが――俺の狙いはただ一つだけ。


「ギギッ!?」


 女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットは態度を一転させて自慢の鎌で俺の放った矢の一つを撃ち落とした。


 その矢は他の矢と違い奴の眼を狙ったものだ。


「やっぱりか、悪いがまだまだ悪あがきさせてもらうぞ!」


 俺は女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの目を狙って集中的に攻撃をした。しかし、鬱陶しそうにしているだけでいまだに俺のことをじっと見つめているのが分かる。


 そして、俺は全ての矢を打ち終わると右手と左手にそれぞれ斧と槍をとった。

 

「まずは1投目だッ!」


 左手に構えた斧を空中で一回転しながら勢いをつけて投げつけた。


 非常に重く、空中から真下に放り投げた斧は女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの頭蓋に突き刺されば致命の一撃になる。


 つまり、あいつはこの攻撃を確実に避けなければならない。

 ――俺の落下地点から動かなければならないということだ。


「グギジャジャッ……!」


 しかし、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの回避した距離はほんの一歩分。奴もまたこの機会を逃せば、俺を仕留めるのが難しいことがわかっているのかギリギリの回避だ。

 そして、ついに俺は女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの大鎌の射程圏内に入ろうとしていた。


 斧を放った俺はすぐさま左手に大盾を構えていつでも奴の攻撃が来てもいいように構えていた。


「ギジャギジャギジャギジャギジャアアアアアアッ!」


 女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの渾身の横薙ぎが襲いかかってくる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 空中で旋回し、正面でその攻撃を受け止める。

 大盾と大鎌が接触した瞬間にわずかに攻撃の機動をずらして衝撃をいなす。そして、十分にいなしたところで大盾ごと大鎌を弾き飛ばしてやり、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの体勢を崩させる。


「2投目ッ!」


 そして、とどめと言わんばかりに右手に持った槍をぶん投げた。

 槍は深々と女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの背中に突き刺さった。


「蟻蛇亜亜亜アアアアアアアアアアアアァッ!」


 だが、その一撃を食らいながらも女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの目はいまだに死んでいない。


 俺はその時女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの眼前にいた。


「ギギギギギギギギギギギギガアアァァ!」


 女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットは顎で俺の首を噛みちぎらんとしてきた。


「ッ!? まじか!」


 これには意表をつかれた俺は即座に抜剣し、ダメージ覚悟で切り掛かった。


「まだ負けてたまるかああああッ!」


 振り下ろした剣はなんとか女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの顔面を捉えることに成功し間一髪助かった。

 とはいえ、顎はわずかに軌道を逸れただけであり俺の左肩を深々と抉った。


「痛え……!」


 そして、俺は体勢を崩しながらもなんとか地面に着地することができたが、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットは止めと言わんばかりにその俺目掛けて大鎌を振り下ろした。


「蜂蜂蜂蜂蟻蟻蟻蛇亜亜亜アアアアアアアアアアアアァッ!」


 刹那――視界の端にマントが揺らめいていた。


「その攻撃は何度も見させてもらったからな。貴様ごときにカグラの命をくれてやるつもりはない」


 その決死の攻撃はメイリー団長が間に割って入って止めてくれた。

 女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットは死力を尽くして振り下ろしていたため、大鎌は深々と地面に突き刺さっており次の行動は大幅に遅れていた。


「ありがとう。団長」


 当然、俺は女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットの隙を見逃すわけにいかない。


 俺は剣を握りしめながら奴の懐に潜り込んだ。


女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネット! この一撃は重いぞッ!」


 両手で剣を握り、上段から一気に振り下ろした。

 その一撃は奴の腹を容易く切り裂き、縦に長く深い傷を負わせた。


「キリルッ!」


 そして、俺は最後の仕事を相棒に任せた。


「安心しろ。てめぇの考えそうなことはわかってる。巻き添え食いたくなかったら、さっさとそこから退きやがれ」


 キリルは俺と団長が女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットを引き付けている間ずっと魔力を練り上げていた。それは女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットに至死の一撃を与えるためだ。


 剣も魔法も弾く強靭な外骨格。それを貫通して奴を死に至らしめる全力の一撃。そのためにずっと――


「吹き荒ぶ嵐は招雷――その姿は天を翔ける馬のごとく疾く、地を総べる牛のごとく荒々しい。汝、俺の魔力を糧としてその姿を現したまえ。唸れ、雷雲。響け、雷鳴。かの敵を討ち滅ぼせッ! 轟けッ! 稲妻ァァァァア!」


 迸る雷が暗い洞窟を一瞬だけ真昼のように照らした。次の瞬間――激しい爆発音が響き、熱波は付近にいる俺の身も焦げてしまいそうだった。

 爆煙が収まり姿をあらわにした女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットは上半身の8割近くをキリルの雷に穿たれていた。


「ぎしゃしゃ……」


 そして、女王殺しの将軍蜂キラークイーンホーネットはついに地に倒れ伏し、息絶えた。


 俺たちはお互いに顔を見合い、示したわけではないが全員が拳を空に突き上げた。


「「「うおおおおおお! 勝った――!」」」


 俺はひとり両腕を天に突き上げて、そのまま背中から倒れ込んだ。


「ごめん、キリル。もう意識保てそうにないからあとはよろしく……」


「あ! おい、テメェこら!」


 俺はゆっくりとまぶたを閉じて意識を手放した。

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