第2話 そららんとみやちゃん

これは夢か。胡蝶の夢か?

中二の事件からはや三年、帰り道はいつも一人だった。それなのに、俺の隣に、人(茜)がいる!どういうことだ、男笹原、心を落ち着けろ、たまたま転入生の静宮茜が、俺をボッチだと、ハブられてる奴だなんて思っていないから声をかけてきたんだ!そうだよな、隣の席のやつなんか一番話しかけやすいよな!

そうだ、そうだ。落ち着いてきた。(女装男子ということは気にも留めてない)


「ねぇねぇ、そういえばさ、名前聞いてなかったね!教えてよ!」


隣からキラキラした声が聞こえる。

こいつ、俺に友達になってと声をかけてきた人間。転校初日から俺なんかに声をかけて、クラスのヤツらに虐められないかどうか心配になってきた。やばい、俺のせいで、無関係なやつを!こんなにいいやつを!


「ささはらくん?なまえー!」


「俺の名前なんて聞いてどうするんだ?」


これから使うこともないだろうし、忘れていくだけだろう。出来れば、俺なんかに声かけてくれる君にほど俺の事忘れていただきたい!幸せに青春を謳歌してくれ。


「いや、友達なんだから!呼ぶでしょ!ほら、僕のことも茜って呼んでよ!」


眩しい笑顔。神か。神だな(確信)


「俺、クラスで浮いてるんだぞ?そんな奴といて大丈夫なのか、転校初日で。やめといたほうがいいんじゃないか?」


そう俺が言えばポカンとする茜(ちゃっかり呼んでる)どうした。


「え?笹原くん…。(盛大な勘違いをしている?)そんなの関係ないよ?もう1回言うね!僕と友達になって!なってくれるまで何回も言うけどね。ぼくは、笹原くんと友達になりたい!」


俺がボッチであることを知りつつも受け入れたのか?なんて寛容なんだ茜。


「…いいのか?俺となんかと友達になって。本当にボッチだぞ?二人組になれっていわれて担任と組むタイプだぞ??転校初日は大事だろ?」


「ダメな理由があるの?僕は笹原くん好きだよ〜!僕だって…前の学校では友達いないもん!」


笑顔で喋りかけてくる茜。天使かな。三次元版天使かな。

あと、前の学校…か。


「…いじめか?」


「…そうだね。僕こんな格好で…一般的に言えば変でしょ?」


「好きなんだろ?良いじゃないか。似合ってるし。あ、これは…ダメか?大丈夫か?」


キョトンとする茜。地雷踏み抜いてたらやばい。

どうしよう、どうしよう。…マジでどうしよう。セーブ地点からやり直したい。


「笹原くん、僕を変って思わない?」


「人の好きな趣味を否定する方がおかしいだろ。俺はいいと思う。茜が女装を突き通してるのはかっこいいと思う。残念ながら俺は、何も出来ずボッチだからな。」


やばい。なんか説教みたいになった。あと暗い話になった。

「友達を作ろう」著 俺  で決めたじゃないか。友達には寛容に優しく、と!


「笹原くん、僕のことかっこいいって言ってくれるんだね。優しいね!絶対友達になる!だから、名前教えて!」


く、クリア?俺、茜の友達ランククリア?なんて寛容なんだ!


「…笹原想楽(そら)だ。音楽を想うっていう…意味だ。」


こんな俺には似合わないほど、綺麗な名前だと思う。俺は、ボッチ生活を初めて、本の世界と音楽の世界に閉じこもったからな。


「綺麗だね!僕も音楽好きだよ。本屋さん行った後には…カラオケでも行っちゃう!?」


行こー!とツインシニョンを腕にぶつけてくる。いいな。それ。俺の人生で諦めていた夢だ。これ自体が夢か。


「いいな。あと、本屋は…ここだ。」


もし、今現実だと思っているこの世界が夢だとしても、こんな幸せなら、十分だ。先に本屋に入る。その名も「孤独書店」。何があったんだ、ってレベルの迫力ある名前で、すぐに常連になった。そして、店長もなかなかの逸材だと俺は思う。


「お、そららん。いらっしゃ…彼女連れやん!やだ、いつの間にボッチ卒業したん?それともついに犯罪にでも手ぇ染めたんけ?」


店に入った瞬間に、50のおばさん店長に言われる。俺には一生彼女出来るわけないだろう。あと勝手に犯罪者にするんじゃねぇよ。


「お姉さん、勘違いしてる!僕は男だよ!静宮茜。僕が想楽に友達になってって言ったんだ!」


え?今俺もしかして、茜に名前呼ばれた?もしかしてもしかして、俺名前呼ばれた!?これはもう、青春じゃないか!(ちょっと違う)


「やーねぇ、お姉さんなんて歳じゃないわよ。ま、常連が犯罪者じゃなくて良かったわあ。そのツインシニョンかわいいわね。私も娘がいてね、髪いじるの好きだったわあ。あ、そららん、新刊入ってるよ。おーい、くそ陰キャボッチ聞いてる?」


俺、友達に名前呼ばれたの…何年ぶりだ…?夢だ、これは俺にとって都合のいい夢なんだ。目覚めた瞬間、自分のボッチ加減に絶望するやつだ。


バシィッ!!唐突に頭に電流が走る。驚き辺りを見渡せば、般若店長と目が合う。


「おい、自称ボッチ。目上の人の話を聞けクズが。3度に1回言われてもこの調子か?あ?新しい希望の人生始まったからって浮かれんなボケ。」


「…すみません。気をつけます。」


こっわあ。店長、すっごいいい人だけど、マナー違反は人100倍に厳しい。茜の前ではきちんとしよう。頭が痛むが、気にしない。


「ねぇねぇ想楽、ここのお店いいね!僕が好きな本たっくさんある!あ、これとか大型書店でもないことがあるよ!こんな古くてマイナーなやつ!買っちゃおっ!」


そう広くはない店内をはしゃぎながら回る茜。あんな日飛び回っても、その頭についてる2つの髪のボンボン(ツインシニョン)は崩れないんだな。すごいな。


「あんた、ええ友達出来たな。いい子じゃない。かわいいしな。今度髪いじらせてもらうか。あー、娘の髪飾り捨ててないよな…?どこやったっけか。」


「…本当に、俺の事友達って思ってくれたみたいなんで、勘違いであろうと、絶対に死守します。」


俺はボッチだ。本当に、マジで、誰にも喋りかけて貰えないボッチだ。たまに耳を解放したら、俺の悪口が聞こえるくらいには嫌われている。(イケメンでクールであるから僻まれているだけである)

だから、そんな俺と仲良くしようとしてくれる茜のことは絶対死守だ。


「おーおー、その勢いだ。頑張れ若者。人生まだまだ長いーよっ!」


と言って俺の背中をバシッと叩く店長。前から思ってたけど、この店長、馬鹿みたいに力ある。痛すぎて声も出ない。ただ、ニカッと笑う優しい店長を責めることができるほど、俺はクズじゃない。


「僕本買うけど、想楽は買わないの?」


コテン、と首を傾げる茜。買います。


「買う。少し待ってくれ。」


そう言って笑う。嬉しくて、つい口元が緩んでしまった。気持ち悪いと思われていないだろうか。


店長さんと話してる想楽に声をかけた。


「僕本買うけど、想楽は買わないの?」


「ん?ああ買う。少し待ってくれ。」


そう言った想楽は初めて笑ってくれた。イケメンが笑ったら凄い破壊力!イケメン!ずるい!それも無意識イケメンだから!


「お姉さん!これ5冊全部ください!」


「あら、よく買うのね。まあ、そららんをよろしくね。あの子、かなりひねくれた引っ込み思案な子になっちゃったから。」


そららん…?想楽って、かわいいあだ名付けられてるんだね。でも、僕想楽って呼ぶよ。だってあんなに似合う名前を呼ばないでいられないからね!

それに、さっきの様子じゃ、想楽も過去になんかあったみたいであんなに盛大な勘違いしているみたいだし。イケメンだから一部には僻まれても…あそこまでなるはずないよね。あんなに友達確認されちゃったし。


「うん!僕、前の学校ではあんまり…っていうか友達いなくて。想楽が偏見も変な好奇心もなく、純粋に友達になってくれたのが凄い嬉しいんだ!それに、僕のことかっこいいって!絶対大事にするよ!」


「全く、茜くんの方がよっぽど男らしいじゃない。茜くんか…んー、みやちゃんでいい?」


わー!初めて呼ばれるあだ名だ!嬉しい!それにかわいいなみやちゃんって。


「いいよ!よろしくね、店長さん!」


「はいよ。そららーん!友達待たせんじゃないよ!早くしなー!」


想楽も、そららんって言われた時吃驚したんだろうなあ。無表情でただ黙り込む。心の中は大暴れかな。想像つくなあ。っとその前に。


「想楽!この後ちょっとだけカラオケ行こうよ〜!」


「…いいぞ。嬉しい。」


僕、静宮茜は、超絶勘違い系拗らせイケメンボッチくんと友達になりました!

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ボッチと女装男子 タナカ @miyaizuki

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