#020 冒険者ギルドでやたらと目立っちゃった!

「な、なんとっ! まさか本当にウェアウルフを討伐されるなんて……それも本日登録されたばかりの新人さんですのに。……あ、こちらがその報酬金となっております」


 冒険者ギルドに戻るなり、受付嬢に討伐の報告を終えると彼女は驚いた声でそう叫び、俺たちは大きな布地の袋に詰められた報酬金75万ベルを受け取っていた。


 というのもクエスト前のこと、俺は今日冒険者登録をしたのにも関わらず、報酬金のためだけにいきなりレベル4のクエストを受注したのだ。

 もちろん受付嬢やギルド内の荒くれ共には止められたのだが、「まあ、吉報を楽しみに待っていてください!」などと大口を叩いたせいか、ギルド内には笑いの渦が巻きあがったのだ。


 嘲笑。


 ギルド内の連中は熟練者ばかりだ。

 今日冒険者登録したばかりの新参者が、自分たちがクリア出来ないレベル4のクエストを受注すればどうなるか。


 そりゃ「なめてんのか」と一喝されるに決まっていたのである。


 そして現在。


「――と、討伐って……あのウェアウルフをか!? おいおい冗談はよしてくれよ」

「――お前さんたち三人で討伐したのか?」


 ギルド内では、普段飲んだくれている冒険者が、いつもは寡黙な冒険者が、そして女性冒険者にしか興味を示さない冒険者が……揃いも揃って俺たちの元へと詰め寄ってきたのである。


 するとカルナが口を開け。


「その場にいたのは私たち三人だけど、実際に討伐したのは……そこにいるカルマ一人だけよ」


 俺の顔を指さしながら、彼女は「あとは任せたわね」といった表情で、一人で勢い良く酒場へと駆け込んでいった。


 俺も腹減ってんのに……あんにゃろ。


 そして俺の隣にいるエレノアが耳打ちで。


「では私もそろそろ限界ですので、カルちゃんの方に行かせてもらいますねっ」


 唇に指をあてがいながら色気もへったくれもないウィンクを最後に、エレノアまで酒場に向かっていった。


 限界なのは俺もだよ!

 つか、こちとらアファリアの連中にパーティーから追放されて以来、何も食ってないっつーの!


 死ぬ!

 死んじゃうから!


 すると、腹を抑えながら身悶えする俺に向けて、カルナとエレノアはやたらと手を振ってくる。

 そして彼女たちの座るテーブルの上には、敢えて俺に見せつけているかのような角度で配置された豪勢な料理が目に映える。


 ……あいつら、いつしかころすっ!



 で。



「たった今クエスト現場報告が入りました……皆様、今から言うことを決して疑わず、落ち着いて聞いてくださいね」


 他の職員から何やら一枚の紙をもらった受付嬢が、膝を震わせながらそう一言。


 どういうことか気になった俺が近くにいる冒険者に尋ねてみると。


 どうやらクエストの討伐後、冒険者による報告だけでは信憑性が極めて薄いため、国直属の役員がクエストの行われた現場まで赴き、その内容を受付嬢まで報告するというものらしい。

 確かに、クエストクリアの証拠を提示しなくても良いのなら、難関クエストをクリアしたと嘘の報告を入れさえすれば金が簡単に手に入るな。

 もちろんそれでは、冒険者という存在自体の必要性が皆無になってしまう。


 そして紙を目にした受付嬢が、恐る恐る口を開けて。



「パーティー名『ゴッドノウズ』によるレベル4クエスト“ウェアウルフ”の討伐記録」



 突如としてギルド内は静寂に包まれ、恐らくギルド内の全員であろう視線が受付嬢の元へと集まる。


「冒険者カルナの足跡、ウェアウルフから半径12メートル先の地面にて確認。続いて冒険者エレノアの足跡、ウェアウルフから半径9メートル先の地面にて確認。いずれも遠距離魔法の使用形跡は、ウェアウルフの死体解剖により“使われていなかった”ことを証明」


 ――そして最後に。


 と、受付嬢が言葉を続けて。


「冒険者カルマ、ウェアウルフの後頭部にゴムボールを当て、ウェアウルフは一時的な気絶を負う。更にウェアウルフの死体の上からは巨大なUFOを発見。そしてウェアウルフ付近の地面からジュール熱を確認。恐らくは昼間に起きた奇妙な雷と関係」


 俺たちが行ったクエストの一端を、寸分足りとも間違いのない報告をし終えた受付嬢は……その事実に腰を抜かして倒れ込んだ。


 てか、役員さんの現場報告正確過ぎるだろ!!


 そして俺の近くにいる冒険者の一人が。


「昼間の王国新聞で話題のなってた雷……まさかお前と関係してたのかよ……こりゃ驚いた」


 驚きの眼を見開きながら、そう一言。


 というか、あの雷そんなに話題になってたのか!?

 まあでも、10億ボルト45万アンペアの超巨大落雷だ。

 それも雲一つと無い晴天の日にだ。

 話題にならない方がおかしいってものなのかもしれない。


 するとその隣の女性冒険者が。


「あなた、カルマとか言ったわよね? 黒髪のあなたが……どうして? そもそもあなたはいったい何者なの!?」


 そう発言すると同時に、他の冒険者たちも俺が何者なのか。

 なぜ普遍的な黒髪のお前が、ウェアウルフをあんな惨い形で討伐出来たのかと。


 興味津々といった表情で質問攻めをしてきたのである。


 ここいらの連中はくさっても、強い奴を尊敬し強い奴とは共生していきたいというタチらしい。


 普通この場面では「なんでお前みたいな新参者にウェアウルフが倒せんだよ。俺たちを見下してんのか?」などといった、ベタな嫉妬が渦巻く展開になると思っていたのだが……。


 まあ、こいつらとは仲良く出来そうでなによりだ。


 そうホッと胸をなでおろした俺は。



「天界から遥々舞い降りてきた、ただの通りすがりの神だ。存分に仲良くしてくれ」



 事実なのだが、ここではこの事実が俺の“アホキャラ”という便利な設定を浸透させてくれるだろうと。


 そう思いながら、少しばかり気張って自己紹介することにしてみたのだ。


 すると。


「――なんだよそれっ!」

「――神って……まあ、お前の幸運値はある意味で神がかってるしな!」


 意外と好感触でした。


 幸先良いスタートが切れて良い気分の俺は、思いっ切り走りながら二人の元へと向かった。



「そろそろ餓死しちゃうからああああああ! 神が地上に降り立って翌日に死ぬとか、それ全然シャレにならないからああああああっ!!」



 ギルド内の連中からアホのレッテルを張られた俺は、実は自身の胃袋がブラックホールだったと判明しましたとさ。

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勇者パーティーを追放されたので、物理法則を乱す幸運スキルで神様始めます! 全人類の敵 @hime_sakura

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