#019 偶然を偶然引き起こしちゃった!
ウェアウルフからの猛々しい咆哮を浴びながらも、俺は何の迷いもなく突っ込んでいった。
俺の背後には地面に落とし穴を作って悦に浸るエレノアと、その落とし穴にまんまとハマりギャーギャーと叫んでいるカルナがいる。
彼女たちの仲が良いのか悪いのかは分からないが……というか恐らく良いのだとは思うのだが、もう少し時と場所を考えてほしいものだ。
まあ、女神がたかが地上のウェアウルフ一頭に緊張感を持つのも、それはそれで威厳もへったくれも無くなるわけだが。
「どちらにせよ、アレは俺一人でやらねばな」
そう思った瞬間、ウェアウルフが大きな右手を勢いよく振り上げ始めた。
俺が近づいてくることに危機感を持ったのか、鋭く大きな爪が特徴の右手は俺を捕えようと距離を詰め始めようとしてくる。
その鋭さから察するに、当たるということは間違いなく死を意味するだろう。
そして俺の頭部は消し飛び、ウェアウルフの鋭利な牙のよって体がボリボリとかみ砕かれるのは間違いない。
かと言って今の俺は手ぶらだ。
護身用の武器など持ち合わせていない。
ならどうするか。
答えは簡単だ。
「ガルルルルルッ!!!!」
ウェアウルフは声をあげながら、俺の体を確実に捕らえた。
巨大な右手から発せられる強靭なまでの握力は、俺の体をいとも簡単に握り潰せる程のもの。
そしてウェアウルフは右手に掴んだ俺の頭部を、自らの血生臭い狡猾さの漂う口元に近づけ始め。
捕食の体制に入り始めた。
この状況をさすがにマズイと感じたのか、どうやらカルナとエレノアが勢い良くこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。
まあ。
「ウェアウルフ。今からお前に訪れる不幸は三つだ」
あいつらの助けなどなくとも、俺は俺のやり方で今の状況を打破出来るんだけどな。
「一つ。偶然にも、遥か南西から音速で飛んでくるゴムボールに頭部を強打されること」
すると、遥か南西に住んでいるボール遊びの大好きな者に投げられたであろうゴムボールが、幸運にもウェアウルフの頭部に着弾して。
その反動でダウンしたのか、ウェアウルフは手から俺を解放してくれた。
「そして二つ。これまた偶然にも、地球にやってきた宇宙人が乗り捨てたであろう巨大なUFOの下敷きにされること」
すると、恐らく太陽系外縁天体木製型惑星の一つである土星から、この地球まで遥々やって来たグレイ型の宇宙人がついうっかり乗り捨ててしまったであろう巨大UFOが、気絶しているウェアウルフの上へと落っこちてきて更に追い打ちをかけてしまう。
「そして最後に三つ。これまたまた偶然にも、快晴にも関わらずなぜか落下してくる雷に打たれて、命を絶つこと」
現在の天候は雲一つと無い快晴だ。
そして、蒼穹の中を場違いなまでにゴロゴロと轟音を鳴らした光のラインが、そのままウェアウルフの元へと落ちてきたのである。
恐らく電圧は10億ボルト、そして電流は45万アンペアであろう落雷が大地を煩雑に砕いて、緑豊かな大森林には場違いなまでの真紅のジュール熱が地面を溶かしていくのである。
「今日の俺の運勢はなかなかに変態じみているな」
消滅していくウェアウルフに「安らかに眠れ」と黙祷を捧げた後、俺がそんな独り言を呟いていると。
「こ、ここまでとはね……。さすがに女神の私でも驚いたわ」
いつものおちゃらけた表情とは全く別の、非常に珍しい表情で驚嘆を隠し切れないカルナがそう一言。
すると。
「“今日の”じゃなくて“いつもの”でしょ? 今のカルマくんにはあらゆる天文学的なまでの確率すら捻じ曲げるほどの“運気”が備わっているわ。……で、カルマくんはその力をこれから何に使うというの?」
そう指摘してくれたエレノアが、このバケモノじみた力を今後どのように使っていくのか。
何のために使っていくのか。
それらを俺の本心から聞きたがっているようだ。
この力はあらゆる偶然を、飽くまでも“偶然”引き起こす能力だ。
引き起こしてから考えるならば“必然”とも言えなくはないが、もちろん俺には未来のことなど分からない。
つい先程のウェアウルフ討伐時は、偶然が偶然を引き起こしてくれたが、これらは飽くまでも運次第。
いつも起きるとは限らないのである。
そしてこの力を何に使うか。
神になって俺がしたかったこと。
それら全ては、神になった今だからこそ言えることなのだ。
「俺はこの力を……お前たち女神を守るために使いたい」
これは、今の俺の一番の思いだ。
そしてもう一つ。
「俺は最も信頼していた連中に裏切られたことがある」
「ええ。カルマくんが女神審議会で選ばれた理由の一つよね」
「ああ。だから俺はアイツらに、“俺という存在のありがたみ”を知らしめるために、王女よりも……勇者よりも崇高な“神”になろうと決意したんだ」
「なんとなく理解したわ」
「それで今の俺は神に至った。だが、俺はこの力で直接的にアイツらを殺めたりすることはしたくないんだ」
「案外人が良いのね」
「元々神は人々から崇拝されるものだ。……だから、俺は神として人々に崇められるような、そんな善行を繰り返していくことでアイツらに“俺という存在のありがたみ”を知らしめていきたいと、そのために力を使っていきたいと思った」
この世界の御神体となることで、人々は勇者や王女を含めた王族よりもまず真っ先に俺を求めてくるようになるだろう。
すると間接的にだが、アイツらに多大なるダメージが行き渡るはずだ。
そして俺は基本的に残虐な支配より、平穏なる共生をはかっていきたい。
その旨を、俺は対面中のエレノアに、そしてカルナに伝えた。
「生まれつきこの上ない不幸に見舞われて、家族同然の仲間に裏切られて一度は命を落としたカルマから……そんな言葉が出てくるなんてね。私、少し見直しちゃったかも」
にひひとはにかんだカルナがそう言葉を続けて。
「てっきり、復讐心のために神様になったんだと……そう思っていたから少し、ほんの少しだけ心配だったの」
つぶらな瞳で、実は俺を心配してくれていたのだと、そう告白してきたカルナ。
嬉しい。
めちゃ嬉しいけど、カルナはそんなことを言ってくれるようなキャラだっけ!?
俺は驚き半分、カルナが根っこからの童心ではなかったのだと……そう強く思い知らされた。
「では、ウルちゃんを討伐したことですし、冒険者ギルドに戻ってご飯を食べましょうかっ」
エレノアのその一言で、つい忘れていた空腹が蘇った俺は。
ゴッドノウズの親愛なるメンバーとともに、冒険者ギルドへと向かっていった。
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