#018 神様が冒険者になっちゃった!

「幸運値が∞インフィニティ……こ、こんな数値は見たことがありません!!」


 そう告げられてから幾ばくかの時が流れたような……そんな気がした。


 そんな気がしただけであって、実際は全くと言っていいほど時など流れていない。



 まるで時間が止まるかのような錯覚に見舞われた俺は、とりあえず理解を追いつかせるために今一度考えてみる。


 まず、今の俺には就ける職業などない。

 あるなら最初に言ってくれるはずだ。


 そして、今の俺には魔力はない。

 ならば事象を書き換えて魔力を奪えば万事解決ではないのか?

 そう思い試してみたことはあるのだが、魔力も金や食料と同じで直接的に世界と繋がりのあるものだ。

 なぜならこの世の魔力は、大気中の“マナ”と呼ばれる魔力の源となる媒体と密接に関係しているからだ。

 マナはいわば空気中の酸素と同じだ。


 それらを、事象を書き換えて強制的に徴収すればこの世の中の運気が乱れ、天界は崩壊の一途を辿ることになるだろう。


 まあ、そうならない為にも自動的にセーブがかけられており、一応は安心出来る。


 そして最後に、俺には先天的に備えられた固有スキルも、後天的に発現した固有スキルもない。


 ならば、俺の唯一の取り柄である幸運値が……∞無限と、そう告げられたのだ。


 これは俺にのみ宿る運気が無限にあるのか、その疑問を解消すべくして受付嬢に聞いてみると。


「そうですね。その値は冒険者カルマ様にのみ宿るものを示しております。……ただ」


 そう言葉を続けた受付嬢が。 


「これはあまりにもイレギュラーなことで私も断定はできませんが、幸運値が∞インフィニティということは無論“幸運”が限りなく訪れるということになります。ですが、カルマ様自身に無限に幸運が訪れる分、世界の運気には乱れが生じます。それは逆説的に言えば、世界はその“欠けた運気”を埋めようと作用しますので、カルマ様にはいずれ悪運が束になって降ってくると……そう私は忠告させていただきますね。まあ、分からないですが」


 なるほど。


 いくら幸運値が無限だろうと、それは幸運が限りなく降ってくることであって“いつでも”降ってきてくれるわけじゃないということか。

 そして俺が幸せになった分、世界のどこかでは不幸が訪れることになる。

 無論、その逆も然りということか。


 前にカルナたちから聞いた説明に似ているが、受付嬢のしてくれた説明の方が詳しいな。



 そして。


「……それでは改めまして」


 コホンと、話を切り返そうとする受付嬢が。



「冒険者ギルドへようこそ! カルナ様、エレノア様、そしてカルマ様! スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」



 そう笑顔満点の大きな声で言い、同時に酔っぱらった荒くれ冒険者の人たちが拍手で迎え入れてくれた。


 そして俺たちは、「異彩を放つ新人パーティーが現れた」と一躍有名人になったのだった。



 ――この事実が、王族側にまで広まってなければいいのだが。






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






 冒険者ギルドを後にした俺たち三人は、早速クエストを受注して懐かしのディア大森林へと戻ってきていた。


 懐かしいといっても数時間ぶりだが、如何せんモンスターが出現する場所にはディア大森林と記載されていた。


 そして事象を書き換えて素早く移動していた俺たちは。



 パーティー名を『ゴッドノウズ』に決め、目の前の大型モンスターと対峙していた。

 もちろんこのパーティー名を考案したのは俺であり、それ以前にはカルナの「かるなちゃんのふぁんくらぶ」や、エレノアの「大女神エレノア様と愉快な下僕たちっ♪」などが候補として挙げられていたのだが……。

 二人のネーミングセンスの悪さに、それって全然パーティー名としてふさわしくないよねと間髪入れずにツッコミを入れたくなる程に壊滅的だった二人のネーミングセンスの無さに……。

 俺は仕方あるまいと、なんかそれっぽいパーティー名を考えてみたのだ。


 名付けて“ゴッドノウズ”!


 神のみぞ知る! だ。


 ノウズだからといって、神の鼻という意味ではないからな?

 勘違いしないでくれよな。


 そして、パーティー名になんだかんだで納得してくれた二人を引きつれた俺は。



 レベル4モンスターである“ウェアウルフ”と呼ばれている超凶暴モンスターを目の前に、若干の緊張を隠し切れないでいた。


 受付嬢から聞いた話によると、ウェアウルフはかなり珍しいモンスターでありその討伐は困難を極めるといったところ。

 そして頭部がオオカミ、胴体がクマといった最恐のモンスターとしても恐れられているらしい。


 事実、実物を見た限りでは受付嬢の言っていた通りの見た目をしており、その巨大な胴体に全てを見通すかのような隻眼が相まってか。


 肉食動物界最恐としてのオーラがひしひしと伝わってくるのだ。


「まあでも、食事のためなんだ。これをクリアすれば、一気に小金持ちになれる」 


 もう空腹には耐えきれないと、そう強く思った俺はウェアウルフに向かって勢いよく飛び出した。



 ――レベル4がどうした。俺は神だ。あらゆる生命の創造主なんだ。



 まあ、創造はしてないけど――


 妄想なら……まあ、多少はね?

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