#017 冒険者ギルドに来ちゃった!
体を存分に清めてからというものの、現在は晴天の昼下がり。
暑苦しい服装も相まって早速汗をかいてきた俺だが、現在はスキップを踏みながらご機嫌のカルナと、俺と目すら合わせてくれずむくれているエレノアを連れて王都のメインストリートを歩いていた。
朝の時にかけておいた認識阻害が良い働きをしてくれているため、俺たちは無難に過ごせているといったところ。
そしてなぜかメインストリートにはそこら中に花びらが散らばっているため、気になった俺は近くにいる行商人にわけを聞いてみることに。
すると。
「ああそれか。それはね、昨日の勇者ライト様と王女フィリア様の結婚式で使われたものだよ。あまりにも量が多いせいか、一日では綺麗に掃除出来なかったみたいでねえ」
物凄く分かりやすく説明してくれた行商人。
なるほどな。
確かにライトさんとフィリアさんは仲睦まじい様子だったな。
いずれは結婚するとは思っていたが、まさか昨日結婚式をあげていたとは。
――呑気なことだな。
「そういうことでしたか。わざわざありがとうございます」
俺が礼を伝え、その場を離れるとカルナが「お腹空いた」とばかり言いながら駄々をこねてくる。
女神も空腹を感じることに、若干親近感を覚えた俺は。
「そうだな。でも、今の俺たちには金がない。……とすると」
生憎所持金ゼロの今の俺たちには、王都の高級レストランは足が運べないってものだ。
そう考えていると。
「なら朝カルちゃんの言っていた『冒険者ギルド』に行ってみるのはどう?」
やっとこさ俺に視線を合わせてくれたエレノアが、そう口にした。
冒険者ギルドか。
そういえば俺もついこの間までは最強ギルドに所属して、魔術師をしていたんだっけな。
まあ、恐らくはパーティーリーダーのライトさんに、俺の名前は除外されているから今の俺は無所属だ。
それに今の俺たちには金がない。
神が三人いたところで、地上界では金がないと生きてはいけないのだ。
とすると、カルナやエレノアの言う冒険者ギルドに行き、新たにパーティー登録をして、冒険者稼業で生きていくと。
……もうその道しか手っ取り早く空腹を満たす方法なない。
そう強く思った俺は。
「よし! その意見に賛成だ。そうと決まれば今から行くとするか!」
そして、俺たち三人は王都の郊外にある冒険者ギルドへと向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
冒険者ギルド。
それは懐かしくも、己に強い自信と絶対的なプライドを持った猛者たちが集う場所。
過去に所属していたこともあってか、今の俺には大分勝手が分かっているといった状態だ。
この世の中にはモンスターと呼ばれる、主に人々に害をなす生物が存在しておりその生物たちはおおよそ五つに分けられている。
レベル1ワン
そう呼ばれるモンスターは、主に草食動物が多く冒険者のチュートリアル要因として扱われるほど容易なものばかりだ。
レベル2ツー
次に、一段階レベルの上がったモンスターのことを総じてこう呼ぶ。
基本レベル1モンスターの上位互換であり、だが難易度としてはそこまで高くはない。
レベル3スリー
このレベルになると、いわば中堅クラスといったところ。
報酬金もそこそこであり、モンスターのレベルも総じて上昇する。
レベル4フォー
このレベルになると、冒険者として非常に鍛錬を積んだ者でない限りクリアは困難の一途を辿る。
あらゆるモンスターは大幅に力を増幅し、また突如として数が増幅するなどイレギュラーな事態に陥りやすい。
しかしその分、報酬金は一年間遊んで暮らせる程。
レベル5ファイブ
天災レベルの超難関モンスター。
国を脅かす程の伝説上のモンスターを、人々は総じてこう呼ぶ。
未だに“神獣”しか発見されておらず、今後現れるとすれば世界は間違いなくこの上ない危機に陥ることだろう。
そして、俺がアファリアに所属していた時に依頼されたのが、レベル5の神獣だった。
大きさは頭が雲を突き抜ける程であり、全体としては銀色の大蛇のようなものだった。
今思い出すと、恐ろしくて時々夢にまで出てくるぐらいだ。
そして、これらのクエストをこなして生きていく冒険者には様々な職業が存在する。
大剣やそれぞれに見合った刃物を武器とするソードマスター。
魔力を糧とし、魔術詠唱で味方をサポートしながら戦う魔術師、もといソーサラー。
回復魔法を得意とした聖職者、クレリック。
並外れた身体能力を生かして、ナックルやククリナイフなどの武器で敵の不意を衝く、アサシン。
あらゆる動物を使役しながら戦う、ビーストテイマー。
そして、これら五つの基本職とは別として先天的、或いは後天的にごくごく稀に宿ると言われている……固有ユニークスキルと言われているものがある。
もちろん俺には無いのだが、勇者ライトさんなら『聖剣使い』、王女フィリアなら『不死の祈り』など……選ばれた者にしか現れないもの。
固有スキルは“スキル”などと呼ばれているが、基本的には職業と何ら変わりはないのだ。
で。
「カルマったら説明下手くそね。これなら受付嬢さんに説明してもらった方がマシだったわ。……まあ、いいけど」
やっとこさ冒険者ギルドへと着いた俺は、受付嬢の説明では初心者向けの説明しかしてくれないことを知っているため。
長々と、これら全ての事柄を女神二人の頭に叩き込んだのである。
もちろん『カルナ、エレノア、これら二人にカルマの“冒険者”に関する全ての知識の共有』と、事象の書き換えはさせてもらったけどな。
そしてこの冒険者ギルド。
俺がいた時とは少しも変わっておらず、非常に懐かしい気分になってしまうのである。
まずは全体的に古びた木の香りが漂ってくる広い造りで、ギルドの中央には受付嬢が佇んでおり、その左隣にはあまたもの依頼書が煩雑に貼られたコルク製のクエストボード。
そして反対側である右隣には、大きな酒場が併設されてある。
次に酒場の周りには木製の椅子がたくさん置かれてあり、そこで荒くれ共が昼間から飲んだくれているといったところだ。
……なんちゃ変わってねえ。
そう肩を落とした俺の元に。
「す、すごいです! 固有スキルの『女神』に……こちらの方も固有スキルの『女神』だなんて!」
驚嘆した様子で大きな声をあげる受付嬢と、その前で興味なさそうな表情のカルナとエレノアが目に映える。
……って、そのままじゃねえかよ!
まあ、事実あの二人は女神なんだ。
固有スキルが女神であっておかしいことは何らないというもの。
「カルマ! 次カルマの番よー!」
二人の固有スキルの珍しさに、ギルド内でどよめく荒くれたち。
ついには二人を拝み始めたりしていたが、まあ女神に祈りをささげるのは良いことだ。
そしてカルナの声が聞こえた俺は。
五年前に経験した懐かしの『職業判別器』というダサいネーミングの腕輪のようなものに右腕をはめ、同時に金の飾り文字が踊るプロフィールを示す書類を提出した。
すると。
「こ、これは……っ!」
慌てた表情の受付嬢が、目を見開きながらそう一言。
俺は元魔術師なんだ。
そして今の俺には魔力がない。
就ける職業など……あるはずがない。
期待するとすれば、固有スキルが後天的に発生することぐらいだな。
すると。
「幸運値が“∞インフィニティ……こ、こんな数値は見たことがありません!!」
ほらな。
俺には職業も固有スキルもない……。
……って、今なんつった!?
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