とにかく小説を読むのが好き。文字を追うのは楽しくて仕方ない。
でも、剣と魔法のファンタジーは飽きちゃった。
そんな人に特別オススメしたいのが、この小説。
竜と契約し、国教の頂点に立つ最高神官(サプレマ)であるフリッガは、王女直属の優秀な騎士・ヴィダとは幼い頃からの知り合いでした。
過去の大事件をきっかけに彼と距離を置くことになったフリッガは、ある日女王陛下の命を受け、ヴィダとともに遠く大国ファルケへ旅立つことに。
二人の祖国ユーレは、火竜を崇める隣国アドラときな臭い状況下にあります。
しかし大国ファルケへは、隣国アドラを通らなければたどり着けません。
このシビアな道のりを、二人はサプレマの竜たちと共に進んでいきます。
道半ばで見えてくる、隣国アドラの影。フリッガの「母親」の姿。先代サプレマの遺したもの。ヴィダと、祖国ユーレの知られざる真実。
そして――「竜」とは、神官とは一体何なのか。
抱えきれないほどの謎を抱えて、フリッガは成長していきます。
宗教の価値が薄れゆく時代で「最高神官」のあり方を求めながら、今まで目を背け続けていたことと向き合っていく彼女は、どこか子供っぽくて不器用で、見ているとハラハラする。
そんなフリッガとヴィダ、そして竜たちが、一触即発の状況をそれぞれどう切り抜け――どんな答えを出すのか。
引き気味のカメラワークと、硬めの文章が相まって、ほどよい距離から登場人物たちを魅せてくれる作者の文才が、端々で光ります。
(おかげさまで、私は特にヴィダのちょっと可愛いところが大好きでたまらなくなりました。)
そして、無駄なところの一切ない、洗練されたストーリーでありながら、文体と言葉選びは優雅で重厚で、ワクワクを思いきり掻き立ててくれます。
古めかしいファンタジーと遠未来的SF、魔法と科学、電子と生命――それらがきれいに溶けあって出来上がる、独特で圧倒的、そして昔から当たり前に存在していたような自然で緻密な世界観。
そこで、ただ祖国の平和を守るために強くなっていく彼らを、読者は見届けることになるのです。
ただのファンタジーではありません。
ただのSFでもありません。
もはやこれは、職人の手がけたガラス細工のように、れっきとした芸術作品であり、ストーリーデザインの傑作です。
すべてのロマンが詰まった、あっという間の物語体験を、あらゆる文章を読み飽きてしまったあなたに。
ぜひお勧めします。
人とは異なる竜という存在。それと契約し、半ば意識や記憶を共有することのできる神官のような存在、プライア。中でも最高神官とされるサプレマのフリッガは、とある事件で父を亡くしていました。
物語は、彼女が父を亡くした事件に巻き込まれた青年、ヴィダに会いにいくところから始まります。彼らが住まうユーレの女王デュートからある命を受けた二人は旅に出ることに。
竜と契り、その力を借りることができるフリッガは、けれどどこか不安定で、他者との関わり方も何やら不器用。読んでいるこちらがハラハラしてしまいます。けれどそれには理由があって——。
ファンタジーな世界観ながら、登場人物たちのセリフや端々からあれ……? と首を傾げることがあって、でもその違和感こそが物語の根幹に関わってくるキーとなっています。さらには世界そのものと登場人物に秘められた謎がとにかく気になって読む手が止まらず、ほぼ一気読みしてしまいました。
人と竜、自我、他者との関わり。フリッガや彼女の竜たちが出した答えは一つの標となるのかもしれません。現実世界においても他者とどう関わっていくのか、自分の信じるものはなんだろうか、などを改めて考えたりも。
と、堅苦しいことを書いてしまいましたが、練り上げられた世界観、個性的でどこか愛嬌のある竜たち、さらには敵側のキャラクターも実に魅力的で、バトルアクションあり、ほんのり恋愛要素(?)もあり、と実に盛りだくさん。
30万字弱の長編ですが、その長さを感じさせないぎゅぎゅっと「物語」が詰まった一作。
実はシリーズの『アルモニカ』を先に読んでしまっていたのですが、えっ、この二人が!? とびっくりしてしまうので、他のシリーズも楽しみです。