第2話 困惑

 不思議な気分だった。20歳にもなれば訃報も届くだろう。しかしまさか相手が佐々木奈央だとは。当時の彼女の顔が頭の中に蘇る。大きく開いた三白眼が特徴的な活発な女性だった。身長が高くスタイルが良かったため彼氏としても鼻が高かった。インドア派な浩二を連れ出してよく2人で遊びに出かけていた。

「そうか、奈央がな。事故か?それとも病気?」

コーヒーを飲み干しタバコに手を伸ばす。聞いてはみたが、奈央に持病があったという話は聞いていない。いつも良く笑っていた彼女は病気とは無縁の人生を送っていたように思う。となれば事故だろうか。

「私も聞いた話だから詳しくは知らないんだけど、どうやら自殺らしいの」

またしても手が止まった。空中に止まったタバコの先からは煙が溢れ、天井に向かって伸びていた。

 予想していない回答だ。奈央が自殺?ありえない。誰にでも他人に話せない悩みの1つや2つあるだろう。しかし、だからと言って奈央が自殺だなんて信じられなかった。家族とも学校の友達とも仲が良くいつも笑っていた彼女は悩みなんて吹き飛ばしてしまうようなパワーを持っていた。

「確かなのか?奈央が自殺なんてする筈ないだろう」

「私もそう思ったんだけどね。浴槽で手首から血を流しているところを家族が発見したらしいの。部屋から遺書も見つかっているみたい」

反論の余地は無かった。遺書があるというのなら自殺で間違いないだろう。しかし、理由はなんだ?

 人が自殺する原因なら簡単に思いつく。金銭トラブルだったり恋人との仲違いだったり、あるいは不治の病だったり。しかし、なんどもいうが彼女はそれらとは無縁の人生を送っていた。

「奈央、別れてからもあんたのこと気にしていたんだよ。都会でしかも1人暮らしだからちゃんと食べているのかなって私によく連絡してきてた。ねえ、お葬式行こうよ」

「ああ。わかった。」


「葬儀は明後日だからね。ちゃんと準備しといてよ」そういって七川は帰っていった。1人になった部屋には静寂が漂っていた。手にしたタバコからは灰が伸び、煙は既に止まっていた。




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追憶 めがふろ @megahuro

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