最初に読んだとき、ここに行きたいなあ、と思いました。海に沈む街、という時点でもう好きなのですが、学校に行かない少女が考えていることはきっと同じ体験をしないと分からない人もいるのでしょうし、夜にカメラを持って散歩する少年もいそうでいないんですよね。ありそうでない、夢のような世界を綺麗に表現していて、どんどんと読んでしまいました。時折ひらがなで表現される言葉の数々がゆったりとした世界をさらに強調していて、その柔らかさが個人的には好きです。全体を通して、優しい気持ちになれる小説だと思いました。
徐々に海に沈みゆく街。魚の鱗が街灯を反射し、アスファルトには藻が生え、散歩する少女の足元を魚が通りすぎていく。その情景は幻想的で美しく、また作中で描写が大きく割かれている月の存在感もあって、油絵か何かで見たい!と思うような場面が山盛りでした。実に美しい!こういう綺麗な世界を思いつく感性に私は憧れます。夜の海の街の世界で出会った少年少女。少女の世界はまた変わっていきそうです。夏休みになって昼にも出歩けるようになる彼女の目には、昼の海の街はどんなふうに映るんだろう?とても綺麗な作品です。