お風呂はとても安心します。

「えっと、そう言えば君の名前聞いてなかったね!なんて言うん?」

私は本名を言おうとして、口ごもります。なにせ私は国家反逆罪として国外追放された身ですから。身バレは防がなければなりません。


「………シェミニですわ」

「シェミニかぁっ!いい名前だね、よろしくね」

「あっ、……はい」

どうしましょう、なんて言ったらいいのか分かりません。


「そーだ、この先どうするの?」

「一応、この森の先の国に行こうかと……」

この先に国があるのかは分かりませんけど…。

「あー、エッセリ冒険国ね?そっかー、冒険者かなうちもそこに行く所だから一緒に行こうか!」

エッセリ冒険国……初めて聞きました。冒険国とはなんでしょうか……?それより……。


「あの、私は1人で行きますわ…。あなたの足でまといになるかもしれませんし……。」

「うちはそんなの気にしないから大丈夫だよー」

「でも…」

「もう!国まで行くだけなんだからいいでしょ?」

「……分かりましたわ。国まで、よろしくお願いしますわ」

……国までです。そこでお別れ、だから近づく必要もないですね。


「よーっし!じゃあ明日に備えて寝ようっ!」

「え…?まだ夜には遠いですけれど…」

「森は夜は本当に危険だし、エッセリまでは結構遠いから。この小屋を朝一に出て、とりあえず次の小屋まで行こう」

……え、そんなに森は広いんですか……。もしかしなくても、私メセユさんに助けてもらってなくては死んでいましたね…。


「あー、寝る前にお風呂入ろっか」

「……!お風呂っ、あるんですか…っ……?」

「おー、お風呂好き?」

「…はいっ、私の一日の唯一の楽しみだったというか……」

そう、お風呂は素敵なのです。一日王宮で辛いのを耐えていても、その後のお風呂で全て洗い流せるくらいにはお風呂は好きです。


「じゃあ、こっち来て?」

「……はい」

大人しく私は外に出ました。そして小屋の裏側まで行き、そこにあった小さな小屋に入ります。


「……凄いですわ…」

私の目に映ったのは、広いお風呂でした。

「ここに着替え置いとくからそれに着替えてね!じゃあごゆっくり!」

メセユさんがそう言って居なくなったあと、私は1度身体を清める魔法が入った石を使い身体を綺麗にして、お風呂に浸かりました。


「……はぁ」

気持ちいいです。とても……。

木の香りもして、リラックス出来ます。


身体を脱力させながら、私は水面を見つめます。

……こんなに落ち着けたのは初めてかもしれません。それくらい、少し前からの急変度は大きかったです。


「……明日から、頑張りましょう」

お風呂で少し前向きになった考えを忘れず、私は湯船の中で目を瞑りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救わない世界でただ一人 空染 ソラ @sky5252idea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ