こんな食事は久しぶりです。
「はぁ………お腹が減りましわね……」
追放されてから夜が5回来ました。
川の水を飲んで空腹を紛らわしてきましたが、空腹は引くことはありませんでした。
私には動物を狩るような技術も、動物を捌く様な技術も持ち合わせてはおりません。
私は本来なら王子の婚約者なのですから。
それにしても、この森は大きいですね。未だに出口どころか人が通る道さえも見えません。
歩いて、休んで、また歩いて、それでも周りの景色は変わりません。
ただ、永遠と同じ景色が続くわけでは無いもので…。
「あ……小屋……?」
どうやら木で作られているようで、周りを確認してそーっと中を覗いて見ましたが、誰もいません。
今日はここで休みましょうか。
「お邪魔します……」
中はわりと清潔です。生活感があると言うんでしょうか……。
でも……大丈夫ですよね……。こんな森の中、未だに住んでるということはないですよね……。
「あれー?なにしてるんー?」
………居たんですね、住人。
私は真後ろからかけられた声に振り向けずに居ました。
「んー、空き巣?あー、でもでもこんな可愛い子がそんなわけないかー」
……私は目前に来た顔にビクッと震えます。
綺麗な方です。白銀色のツインテールは目前の方の美しさを活発なものに変えています。
「あ、あの……随分前から何も食べてなくて……疲れてて……小屋を見つけたから、誰もいないなら休憩しようかと………」
どもりながらそう答えます。私は人と話すこともこの短期間で難しくなってしまったのですね。
「マジ?…よし!いいよ!止まってって!うちのことはメセユって呼んで!」
「えっ、あの……私と関わると……」
ろくな事にならないです。その言葉は喉の中で滞留しました。
メセユさんが抱きしめてきたのです。
「何言ってんの、そんな辛そうな顔して。一見無表情だけどさ」
「そんなことは……」
「もう!大丈夫だって!ほら!上がって!」
そう言われましたが、やはり信じられません。
期待しても裏切られるのは知っていますから。
でも、ここは乗っておきましょう。正直、お腹の空腹がそろそろ酷いですし。
「少し待っててねー!適当に座っててー」
私はその言葉に甘え、椅子に腰掛けます。それから暫く経ってでしょうか、美味しそうな匂いがしてきました。
「うん!はい、これ。テゾーンの焼き飯」
「美味しそうですわ……」
「そう?ありがとう!テゾーンはね、ぴょんぴょん飛び跳ねて捕まえるのは難しいんだけど、凄く美味しいんだよ!」
1口、口に入れてみます。
「……っ!」
これは……!噛めば噛むほど出る旨味は王宮では食べたことがないです。
夢中でかきこみます。
「気に入った?」
「………ありがとうございます…」
こんなに満たされる食事はいつぶりでしょうか。
「うんうん、おかわりはまだまだあるから遠慮せず言ってね!」
「……おかわりお願いします…」
「あいよっ!」
……本当に、美味しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます