07
空港にはたくさんの人達がいるけれど、その中で、一番目を輝かせているのは、きっと私だろう。
ネイビーのハットに、ベージュのワンピース。足元のミュールには小さく可愛いリボンつき。カートをひいて颯爽と歩けば、どこから見ても大人の女だ。辺りを見回せば、その黒髪がたなびいた。艶めく髪は大切に伸ばし続けて、背中くらいまであった。今では友達から羨ましがられるほどだ。
搭乗ゲートに向かう途中、何人かの男が振り向いた。きっと、私がいい女だからだろう。そんな自信過剰なことを思ってしまえるほど、今の私は浮かれていた。
ゲートを確認すると、ラウンジまで移動した。当然、そこにいるのはみんなが大人だった。私は入り口でゴールドのクレジットカードを掲示して、中に入った。窓際の席に腰を下ろせば、向こう側には私が乗る飛行機が見えた。
離陸の時間まではまだ随分とあった。その間にこの日のために準備してきたことをメモで確認する。必要なものは全部持ったし、到着したら向かわなくてはいけない所も、もう何百回と確認している。それでも私は小さく言葉にして、繰り返した。今の私にとって、それは魔法の言葉だった。
隣のビジネスマンが小声で電話をし始めた。周りを気にしながら口もとを抑えているが、私には聞こえていた。それは、英語だった。天候とか情勢、株価などを聞いていいて、どうやら、それはこれから向かう土地の情報で、相手は現地の人間のようだった。その場所は、これから私が向かおうとしている場所に、ほど近かった。
私は自信がついた。一生懸命勉強してきたことが、実践レベルで身についていることを実感したからだった。この日のために、英語はもちろん、経済や経営、政治とか、とにかく社会のことをいっぱい勉強した。
一方で、いい女になる為の努力も欠かさなかった。日焼けを重ねて真っ黒だった私の肌は、いまでは絹のように真っ白だ。手の指先にはネイル、足の指先にはペディキュア。それも流行のカラーで揃えてある。
スマホの画面を暗くして、自分の顔をチェックした。メイクは崩れていなかった。大人しめなそれは、いい女の条件なのだ。
仕上がりに納得して、スマホの画面をつける。その待受画面には、都会的な男性と、その隣には、どこか悲しそうな表情の女の子が写っていた。恋に焦がれると、火傷するんだ。そんな顔をしている。
私は、心に気合を入れた。一気にやる気がみなぎってきて、バチバチと弾けている。
「待ってて下さいね」
その写真に向かって、笑顔を向けた。喜びや幸せという感情がつまった、とびきりのものだ。
私は今日、飛び立つのだ。
あの時の少女が贈ることが出来なかったそれを、届けるために。
「涼介さん」
その名前を呼んだら、夏の香りがした。
火花を刹那散らせ ゆあん @ewan
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