第5話

                 ○

 厳しい残暑も終わり、秋の入り口を感じる気候になった頃、次のイベントが開催された。今回はDJが主体の内容なので、由美さんは来ないようだ。少しホッとしたようなそうでもないような気持ちでいたら麻衣が「フラれたの?」と声を掛けてきた。誰に聞いたのか。


「涼介をフるなんて、見る目の無い女ね」酔っているようだ。

「いや、とても見る目のある人だったよ」僕はぽつりと呟いた。しかし麻衣の奴、もしかして僕の事を……? と思ったのも束の間。すぐに麻衣は最近つきあい始めたという彼氏といちゃいちゃしていた。


 何だか騒ぐ気分でもないので、音楽を聴いて一人で飲んでいた。周りのグループから、恋人の愚痴が聞こえてくる。何でも束縛の強い彼氏で、彼女が彼氏に断りなく美容室に行って髪を切っただけで怒るらしい。

 そんな奴のどこが良いんだろう? と心の中で思ってしまったけれど、僕は「そこ」しか聞いていない。顔も知らない二人の間に、どんな時間が流れていたかは全く知らない。僕が批判する道理など無い。もしかして束縛を上回る愛情を感じる何かがあるのかもしれない。

 人を好きになるって、どういう感じだっけ?


                 ○


「人を好きになるって、理屈じゃないから」テレビから聞こえてきた。最近よく見る中島という男性アイドルが云っていた。端正な顔立ちに甘い言葉、完璧すぎる、なんてうさんくさい。しかし妙に納得した。


「やっぱり中島君って素敵、ルックスも思考も」妹がうっとりしていた。

「この中島ってアイドル、うさんくさくない?」と妹に聞くと「それは、妬み?」で終了、かと思いきや。

「嫉妬って、近いから起こるものでしょ。お兄ちゃんと中島君じゃ次元が違うから。勘違いもいい所、恥ずかしい」追加でボロクソに云われた。


 そっか、嫉妬って近いから起こるものか。伊沢は僕と違って色々ちゃんとしている奴だ。だから妬む気持ちが無かったのかな。あれから伊沢は、由美さんと連絡先を交換して、時々メールをしているらしい。


 アイフォンが鳴った。【最近ジム来ないの?】ジム仲間からのメールだった。

 そういえば暫く行ってなかったな、サッカーも。よく見ると少し太ってきたかも。

 とりあえず、いつ好きな人が出来ても良いように、外見は気をつけておこう。

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夏の宿題 青山えむ @seenaemu

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