ぬけがら
韮崎旭
ぬけがら
探し出す死は遠く甘やかでつつましい、この手を引いてどうか断頭台。
懐かしいという記憶がない、私の死をどこから持ってこようと、知ったことか。
次第に乖離していったのだと思う。私が生き物で無くなる過程は、
太陽光に殺害された無数の鬱屈の墓に賭けられた花輪。
海辺の街にでも向かおうか、鉄道か切符はあるか、君の行き先に航路があるなら無害をせめて願えたらなあ。
運命ですらない。それは信じない。でもクラリモンドは美しい。彼女が与える死もまた美しい。
腐った下で歌う声は、どこにも届かない。腐った脳で描く視野は、どこにもなじまないまま、行方不明を纏ってうろつく。
蔭りを見つけたい思いで、ただそれだけだ。リンゴの芯が蛆に見えるのも、自身が死屍に近しくも、あればいいと思い、どうして終わらないのかわからない意識が、暴投する、6月末日に。
詠み人しらずの厭世が、壁に張り付いて空気に浸潤して、肺を侵して、もう何もいらないしそもそも意欲が皆無だから。
抜け殻のように生きているために、死へ向かう意欲すらもないのがなんとも笑えない寒気がするような喜劇だった。
暴力を夢見ることもない、死神の呼び声を聞き分ける能もない、呼吸する端から忘れてゆく自身、憧れる自壊が、ここで待っていてと言い聞かせてほしい。
海岸は閑散として、心象風景の落書きかと思った。子供連れの声が鬱陶しく、何事にも集中できそうになかった。
焼身。
灯油を買い忘れても、大丈夫でしてよ。消し炭になった人間。私の探し物。
せめて死を願う意欲があれば。其れすらもない抑うつは、どこへ向かったらいいの?
買い忘れた切符のせいで精算機。
ここは房総半島だけれど、
太平洋だけれど、
もう死のう、
飽き飽きだ。
吐き捨てるようにつぶやいた言葉は人間的な意味を持たずに。
ぬけがら 韮崎旭 @nakaimaizumi
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