第十五夜 「エゴサ」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「皆はエゴサとかするほー?」

 みか 「エゴサ?」

 かず 「エゴサーチ。SNSで名前とかハンドルネームとか、自分に関連した単語で検索してみることですな」

 みか 「エゴ=ダス・イッヒ=自我。ナットクー」

 かず 「何故にラテン語からドイツ語に翻訳してから理解したのだろうか」

 あみ 「で、しますのん?」

 みか 「しませーん」

 みか 「やり方わからないー」

 かず 「ま、する/しないだと、するわな、あたしは。オタク趣味のほーがあるからな」

 かず 「つっても、調べられて困るほど名が売れてる訳でなし」

 あみ 「まーそなんだけどねー」

 あみ 「あーしは、ついついTwitterとかでしちゃうのデス」

 かず 「あみっちはおっぱいでかいらしいぜ、とかか?」

 あみ 「書かれてないしっ! てか、言ってないしっ!」

 かず 「そう言いながら、知らないうちに流れているものなのだよ、噂というものは」

 みか 「コワーイ」

 かず 「あみっちの乳輪はCDサイズだぜ、とか」

 あみ 「そんなにおっきくないし! ぎゃおー!」

 かず 「んじゃ、どんくらいよ?」

 あみ 「えっとー。……って答えません! NOデス!」

 かず 「ほーら。これでSNS上に唯一残った情報としては、あみっちの乳輪はCDサイズってことでFAになるじゃろ?」

 あみ 「ひどいしひどいしっ!」

 みか 「おっきー」

 あみ 「ホントだったらマジで怖いっつーの!」


 話題が話題だけにチャットを挟めない者が一名。

 ここはスルーするのが賢明である。


 かず 「つっても、あみっちの場合、お気にの有名人の垢フォローしたり応援メッセ書き込んだり程度っしょ? んなもんで、エゴサしたって何も出てこないっすよ」

 あみ 「ん。前にエゴサしたら自分の住所とか悪口とかいっぱい出てきたって人いたし」

 かず 「それはそれなりのことをしてたからで、インガオホーっす」

 かず 「ネットじゃ迂闊に自分の事を書いたりしちゃあかんってこと」

 みか 「LIME以外は読む専門でーす」

 かず 「そーそー。みかっちみたいなのはエゴサしても何も出てこないっすよ」

 あみ 「んでも、誰かガッコーの子があーしの悪口書いてたらやだなーって」

 かず 「そーゆー人はますます見ないほーがいいっしょ」

 かず 「大体、あみっちの悪口書く奴なんているわけねーから。いたら社会的にコロス」

 あみ 「!」

 みか 「ナカヨシー」

 かず 「ち、ちがわい! そーゆーんじゃなくってだなー!」

 あみ 「(テレテレ)」

 かず 「やめろおおおおう!」

 †我†「何を気にしている。仲の良いのは本当ではないか。我が保証しよう」

 かず 「やめてえええええ!」

 あみ 「(ぽっ)」

 かず 「百合百合すんなあああああ!」

 あみ 「へ? 百合?」

 みか 「ききたーい」

 かず 「聴くんじゃねえええええ!」

 †我†「とにかくだ。エゴサーチはしない方が良いもの、そういうことと理解して良いのだな?」

 あみ 「……みたいデス」

 †我†「わ、我は気になってしまうのだが……配下の者たちがどう思っているか、などを」

 かず 「知らんほーが幸せっすよ」

 †我†「で、あるか」

 かず 「第六天魔王乙」

 †我†「エゴサか。ううむ……これは知らない方が身のためであったかもな。うむ」


 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 エゴサとは――。



 検索機能などを駆使して、自分の本名やハンドルネームを検索し、『いんたーねっと』上における自分自身の評価を確認する行為のことである。『自己検索』という意味であるらしい。自分の知らない間に個人情報が書かれていたり、また、『いんたーねっと』上で誹謗・中傷されている場合があり、それを発見するためにする行為であるとのことだ。


 この『いんたーねっと』なるものは、我が支配するこの世界においては、《千の言霊遣い》ユグーによって生み出された秘術によって我ただ一人が接触できる空間故、我に関する情報を探したところで何の情報も見つけることはできないだろう。


 だが……。


 この『エゴサーチ』を魔族の世界、我が居城内にて行った場合、果たしてどのような声が聴こえてくるのであろうか。


 知らぬ方が良い、と一人の少女は言っていたが、確かにその通りである。


 我は良き王であるのであろうか。皆は我の眼前でこそ平伏し、ひたすらに畏敬の眼差しを向けて来るが、もしもあれが嘘偽りであったとしたら? 真実は対極にあるのだとしたら? ふとそう思ったら、唐突に足元の床が消え失せたかのごとき恐怖を感じてしまった。


『知らぬが魔王』。

 古くから良い習わされている慣用句であるが、まさしくその通りである。


 結論:エゴサーチはしない。絶対にだ。また、今一度、皆の待遇を確認し、不当なる扱いを受けている者がいないか良く改め、もし見つけた場合には正当なる評価を与えることとする。可及的速やかに、だ。

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JK3人と魔王の秘密のチャットルーム 虚仮橋陣屋(こけばしじんや) @deadoc

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