第十四夜 「インスタ映え」とは何であるか?
あみ 「よっすー」
みか 「こんばんはー」
かず 「ばんわー」
†我†「邪魔をする」
あみ 「やっぱー、ユーチューバー諦めたわー」
かず 「早いなおい」
あみ 「だって! 誰もちゃんと振り覚えてくれなかったし!」
かず 「おい。あれ、振り付けっていうのか?」
みか 「ぱんちぱーんち」
かず 「上段、中段、上段、中段、上段、中段……ってどんな格ゲーだっての」
あみ 「流行ってるっしょ」
かず 「流行りっていうかだな……動画でJKならこうするっしょ、ってな型のハメ方がいかにも臭くってやる気がおきないっす。テンプレ乙」
あみ 「じゃあじゃあ。上でフリフリ、下でフリフリ、みたいなアレはー?」
かず 「ガラコのCMしか浮かばねえよ」
みか 「ちぇーんじわいぱー」
かず 「……よくご存じで。マジびっくりだわ」
かず 「いやー、ちゃんとしたオリジナルの振り付けなら超頑張ったわー」
あみ 「じゃあじゃあ。もっかい挑戦するー?」
かず 「だが断る」
その後もいろいろと説得したものの、かずは頑として首を縦に振らなかったのであった。
あみ 「もーいいし! だったら別のSNSやることにするデス」
かず 「最初からそうしろと小一時間」
みか 「あみちゃん、何するのー?」
あみ 「そね。んと。だったらインスタっしょ!」
かず 「またまたド定番を」
あみ 「うっさいし! ぎゃおー!」
あみ 「ほら、あーしら、結構スタバってるじゃん? あれ写メってポストってればいいのデス!」
かず 「またテンプレめいたことを」
あみ 「盛り盛りの全部乗せでー。グランデアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースチョコレートチップチョコレートクリームフラペチーノ!」
かず 「ぬおおお! やめろぉ! その呪文は……その呪文はまさかあああ!」
かず 「一応、付き合ってやったが。……美味いのか、それ?」
あみ 「それを含めてのインスタっしょ。映えるわー!」
†我†「そろそろ聞かせてもらおう。そのインスタとやらは何であるか?」
みか 「インスタグラムでーす」
†我†「またも省略詠唱か……むう」
†我†「して、インスタグラムが映えるのか? 生えるではないのだな?」
あみ 「見た人が、これいいわー、ってハート付けてくれるのデス」
†我†「……少し分からなくなったぞ、我は」
かず 「無理に理解しようとせんでいっすよ。あたしも理解できないほーなんで」
あみ 「ヨユーっしょ?」
かず 「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」
みか 「でもー、それだとスタバ公式のインスタっぽくないですかー?」
あみ 「……う。賢みあるおコトバ」
あみ 「じゃあじゃあ! インスタ映えする写メ撮りにあちこち旅すればいーのデス!」
かず 「おぅい! もはや何が目的なのか分からんくなってきたぞ?」
あみ 「困ったわー」
みか 「こまったー」
かず 「困んねえよ。やめちまえ」
†我†「スタバでインスタグラムが映えるとハートが付く……? どういうことなのだ……」
かず 「ほら、我、悩んじゃったじゃねえか」
†我†「ぐ……もう頃合いか……。我なりに何とか理解できるよう努めることとする」
しばらく間を置いて、再びチャット。
†我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」
以上、チャット終了。
我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。
「ふむ」
代わりに今日知り得た情報を整理することにする。
インスタグラムとは――。
分からない。
結局分からなかった。
こうなれば、宣言通り、誇りにかけて我なりの解釈をするよりない。
省略詠唱が好きな人間たちのことだ。インスタがインスタグラムであるように、インスタグラムもまた、別の言葉の省略詠唱だと考えるべきだと思う。二重省略詠唱ともなると、相応に高位の魔道使いでもなければ到底不可能だが、常日頃よりスタバの町で修練に励んでいる彼女たちならこそ、それもまたいずれ可能となる、と考えて良いだろう。
つまり、インスタグラムとは、インスタントなグラムであるのだ。
グラムと言えばそう、『グラーガース』にも記されていた古の言語で『怒り』を意味する聖剣の名だ。彼の者が父の仇を討ち、悪竜を倒したとされるあの聖剣である。それに相違ない。
それのインスタントな物、と考えてしまえば理解に容易い。
つまりは、下位の聖剣を生み出す秘術なのだ。
それを持つに相応しい者が現れれば、皆がハートを付ける、それすなわち心臓を捧げるということだ。いやしかし、これは直接的な表現ではなく暗喩である。それが下位の物とはいえども、聖剣を持つことを許された勇者が現れれば、皆が敬い、信奉するということを示すのだ。
スタバでインスタグラムが映えるとハートが付く――。
そうこれは、スタバの町において下位の聖剣を生み出す魔術を行使し、それ持つ者に相応しいと聖剣に認められれば、皆が心臓を捧げるであろう、ということなのだ。我ながら自分の卓越した推理力と理解力に驚きを禁じ得ない。日々の繰り返しは伊達や酔狂ではなかった、と。
そして、ユーチューバーになることを諦めてもなお彼女の向上心は尽きない――これには感服せざるを得ない。寛大なる我は、今しばらくは咎めることなく黙して見守ることとする。
結論:その力が幾許か奪われたとしても、聖剣を無限に生み出せる魔術の完成は我々魔族にとっての大いなる脅威である。インスタグラム、恐るべし。
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