合縁奇縁 ――最上来
今年の夏は、暑い。とにかく暑い。
「 …暑いね」
「 ホント嫌になるぐらい暑い…」
「 テレビ見てるとさ、今年は酷暑なんて言ってるじゃん…なんだよ、酷暑っ
て、今年異常気象多すぎだからね!?」
「 はいはい、
大学一年生の夏、ひどい暑さに全てのやる気を削がれ、せっかくの夏休
みなのにダラダラして過ごす毎日。
去年あんなに勉強頑張ったんだから、今年はめいいっぱい遊びたい。遊
びたいのに…こんな暑さじゃ外に出たくない。
「 秋香、やっぱり毎日ダラダラは良くないよ!」
「 わかってるけどさ…外出たら暑いじゃん?」
「 私は秋香の家に来る時暑い思いしてる!だから、出かけようよ!買い物し
よ!」
「 えー、
「 うるさいっ!早く行くよ!拒否権なし!!」
「 …マジすか」
そんなこんなで、暑い中外に連れていかれた。コンクリートジャングル
の気温は35度を超えて、ホントに溶けると思えるぐらいの気温の中、都
心に向かった。
◇◆◇
私は人間のクズだ。
それは今も変わらない、でも昔よりまし。
私の人生は物語なの、タイトルは
もちろん私、登場人物はみんな名前を持ってなかった。
仲良くなった友達もそれなりにいたし、恋人だっていた。でも、いただ
け。名前を持つほど大事に思える人はいなかった。
今でも1番仲のいい親友。希涼が私の物語で名前を持ってから、他の人
もちゃんと名前を持ち出した。
そしたら、あんなにつまんないと思ってた人生が楽しくなった。見えて
た景色が明るくなった。
◇◆◇
「 うわぁ…さすが人気店、すごい並んでる」
「 希涼、まさかこれ並ぶとか言わないよね…この炎天下の中」
「 さすがにこれは私も嫌だ…だから!夜リベンジしようか、日が落ちてか
ら!」
「 …拒否権はまだ無い?」
「 もちのろんっ」
「 …はーい」
東京の有名観光地、浅草。ここもコンクリートジャングル、そして人が
すごい。風も吹いてないし、体感温度は35度よりずっと上。
「 みんなかき氷大好きなんだね」
「 暑いと食べたくなるよね~それにあそこのお店のかき氷は映えるから人
気店なんだよ」
「 あ、インズダの事ね。みんなインズダ大好きかよ」
どこのお店の食べ物も見た目がどんどん派手になっていく。そりゃ、私
も女の子だし可愛いの好きだから嬉しいよ。でも、お店の人大変そうだよ
な~とも思う。
「 浅草寺行ってから買い物しよ!スライツリーとか行けば買い物できると
ころあるから」
「 もう…希涼に任せるよ」
ここからは希涼の独壇場。
希涼は今まで仲良くなった子とタイプが全く違う。私の苦手なタイプと
言ってもいい。
そんな希涼となんで仲良くなったかは、成り行きだから詳しくは覚えて
ないけど…今は希涼と親友になれてよかったと思ってるよ。人生で今が1
番楽しい!
…買い物が長いのは勘弁して欲しいんだけどね。
「 秋香!このリスのピアスと猿っぽい化け物みたいなピアスどっちが可愛
い?」
「 断然リス」
「 でも、この化け物見てたら愛着湧いてきた!これにしよ~」
希涼の悪いところ、人に聞いといて全く意見を取り入れない。
「 簪!すごい!簪なんてしたらオシャレだし、かっこいいよね~」
「 確かに、可愛いのいっぱいあるね」
「 このキセルの可愛い!桜とトンボの柄がある!」
「 希涼…買うの?」
「 うん!可愛いもん」
「 それなりに値段するよ…キセルのやつ五千円だって」
「 …だ、大丈夫!これから使うと思ったら安い!桜のやつ買ってくる」
思い出を買うとか言って、値段を気にせずに物を買う。
「 スイーツビュッフェだって!行こ!」
「 この後かき氷食べるんじゃないの?」
「 甘いものは別腹だよ~早く行こうよ!」
この後のことを考えて行動しない。
「 …は!お金使いすぎた~それに買ったもの多すぎて荷物邪魔…秋香!な
んで止めてくれなかったの!」
「 止めたって希涼は聞かないでしょ…」
冷静になった時、私に止めてよって怒ってくる。
「 あー買いすぎだ、お財布すっからかん」
「 かき氷代、残ってるの?」
「 秋香ちゃーん、奢って♡」
「 嫌だよ、お金ないなら帰るよ」
「 お願いだから~」
可愛い顔してるところ。この大きくてうるうるした目でお願いなんてされ
たら、断れるはずない。
「 …早く、かき氷食べに行くよ」
「 やった!秋香大好き!」
いつもお決まりのパターン、買いすぎてお金の無い希涼に私が奢る。人
に言うとうまく使われてるって言われてるけど、そんなことない。
希涼はこういう性格なの。私はこんな性格の希涼が大好きだし、希涼の
性格をわかってつきあってる。人にとやかく言われるのは、ムカつく。
◇◆◇
「 さっきよりは並んでる人少ない…よね」
「 日も沈んでるしそんなにしんどくないよ!早く並ぼ~」
自分からこういう並んでるお店は入らないけど、希涼と出かけると行列
に並ぶお店も嫌じゃない。並ぶ価値があるほど美味しいし、希涼はおしゃ
べりだからずっと話してくれる。待つ時間も苦じゃない。
「 ここのかき氷、どんなのなの?」
「 なんと!味がひとつしかないの」
「 ひとつ…何味があるの?」
「 オーナーさんが朝市場に行って、1番良さそうなフルーツを仕入れるの!
だから、毎日何味かわからなくてひとつしかないの!すごくない?絶対美
味しいよね~」
「 それは美味しそう。早く食べたいね」
「 ね~」
私はあんまりやってないけど、希涼は女子大生っぽくインズダをやって
るから、映えるスイーツが大好き。私は甘いもの大好きだし、食の好みも
意外と合う。
私がド偏食だから、食の好みが合う人今まであんまりいなかったの。だ
から、ご飯食べに行くのもちょっと嫌だったけど、希涼とだったら行きた
いって思える。
「 秋香がいてくれてホント助かる!きー君は並んでるお店つきあってくれ
ないし、買い物も長いって怒られちゃうからさ、ホント女の子の気持ちわ
からないよね!きー君は」
「 まぁ、
「 秋香…裏切り者!きー君の味方した!」
「 いや、味方というか…味方かもね」
「 秋香嫌い~!」
希涼がきー君と呼んでる人は
私と希涼より2歳上だけど、同じ大学一年生。希涼と高校が同じで家も
近いらしく一緒に大学に来るぐらい、2人は仲がいい。
貴咲くんは私の物語で2番目に名前を持った人、そして今の私の片思い
相手。
希涼にヤキモチを妬いちゃう時もある。ヤキモチとか青春!ってポジテ
ィブに考えるようにしてるけど…時々胸がぎゅーってなる。
「 きー君はフルーツ苦手だからこういうお店絶対入ってくれないし、お金な
いからってファミレスばっかり。きー君にどこ行きたい?って言うと居酒
屋ばっかり。私まだ未成年なのにさ~ひどいよね」
「 普段あんなに貴咲くんのこと振り回してるんだから、つきあいなさいな。
貴咲くんが可哀想すぎるでしょ」
「 みんなそうやってきー君の味方するの…秋香だけでもいいから、私の見方
になってよ!」
「 無理」
この会話はわりとテンプレート。
何回もしてるけど、何回もしちゃう。だって、無理って言ったあとの顔
が可愛すぎるんだもん…!
今の推しは片思い相手の貴咲くんだけど、こんな顔されたら、誰でも希
涼の味方したくなる…!でも、希涼の周りの人は貴咲くんがいつもどんな
扱いされてるのか知ってるから、味方しないんだろうけど。
「 2名様ですね、大変お待たせいたしました。お席にご案内いたします」
「 あ、ありがとうございます」
30分ほどで店内に案内された。
席につくとすぐに気づいた。店内が甘い匂いに包まれてるのに。みんな
が食べてるかき氷の匂いなのか、何かいい匂いのものを置いてるのか。
「 本日はメロンかき氷となっておりますが、よろしいですか?」
「 はい、よろしくお願いします」
調理場からガリガリと氷を削る音が聞こえる。忙しそうに大きなかき氷
を運ぶ店員さん。カシャカシャとカメラのシャッター音。
「 やっぱり好きだわ」
「 ん?突然どうしたの?私に告白?秋香が私のこと好きなんてとっくに知
ってるよ」
「 違うわ、こういうお店の音とか光景。並んで入るようなお店はあんまり入
らなかったから、騒がしいのとか好きだなって思って。それと、お客さん
も店員さんも可愛くて若いから、オバチャンの目が癒される」
「 あれ…秋香いくつだっけ?確か同い年だったと思ってたんだけど、記憶違
い?」
「 うるさいわ」
同世代の子はキラキラしすぎて怖いとも思っちゃうけど、こういうお店
の子たちはみんな楽しそうで見てる私も楽しくなる。
女の子って可愛いものを見るだけで、楽しくなれる。私は女の子に生ま
れてホントによかった。
「 はいはい、そんなことはいいから。かき氷きてるよ」
「 え!?全然気づかなかった…」
2人用の狭い机に大きなかき氷が2個、透明な器にほんのり緑色のかき
氷、そのかき氷の周りに星型に切られたメロンがところ狭しと並んでる。
インズダをやってない私でも、それはインズダ映えするってわかるほど
可愛い。
「 これ…食べるのもったいない!」
「 どの角度から撮っても美味しそうで可愛い!」
希涼の撮影会を邪魔するのはいつものこと。
「 ちょ、秋香!手邪魔!」
「 気にせずに撮っていいんだよ」
「 気にするから!どかしてって!」
そんなこんなをしてるうちにかき氷は徐々に溶けていく。
冷たくて美味しいかき氷、でも溶ければただの水。
シロップの味しかしない。
少し残った氷が歯にあたってシャリ、と音がする。
少し歯ごたえのある、ただの甘い水。
◇◆◇
「 美味しかった~!」
「 美味しかったけど…高いわ!かき氷2つで三千円消えると思ってなかっ
た!」
「 いいじゃんいいじゃん!今度奢るからさ~」
「 希涼の奢るが実行されたこと無くない?」
「 そ、そんなことないよ~多分」
「 じゃあ、言ってみ?いつ私に奢ったか!具体例を!」
「 …無いです、ごめんなさい」
かき氷は美味しかったけど、撮影会に夢中ですっかり溶けてしまった。
シロップが美味しかったから良かったけど…ちゃんとかき氷として食べた
かったな。
「 あ、私きー君の家に用事あるんだった!時間すごい過ぎてるから先帰る
ね」
「 わかった、変な人について行っちゃダメだよ」
「 子供扱いしないでください~」
「 減らず口はいいから、貴咲くん待たせてるんでしょ?早く行きな」
「 はいはい、じゃーね!」
手をぶんぶん振ると、希涼は走り出した。ヒールなのによくそんなスピ
ードで走れるなってほど、早く。
「 希涼はいいよね、いつでも貴咲くんに会えて。貴咲くんはきっと希涼のこ
と…」
恋をしてるからわかる。
恋をしてる人の目が。
貴咲くんが希涼を見る目、それは私と同じ。恋してる人の目をしてる。
悔しいけど、希涼には勝てない。勝てるところなんて握力ぐらいしか思
いつかない。
貴咲くんには片思いでいいの、片思いが1番楽しくて苦しくて、恋をし
てるって実感できるから。
いいの、これ以上は望まないから。
大好きな希涼と大好きな貴咲くんの幸せが1番、それが今までクズとし
て生きてきた私への罰。
平成最後の涼を 鮎 @kotonohasarara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます