第14話 ハンバーガーとシーフードカレー

 一頻り泳いで遊んでランチタイムになった。

 準備はサーシャが手伝ってくれたと言うか調理当番は俺らしい。

 何でもフラウさんが俺の考えた料理を食べてみたいらしくサーシャにまでお願いされてしまう。

 テラスには大き目のバーベキューグリルがあるので肉のミンチに香辛料を入れて粘りが出るまで混ぜたパテを適当な大きさにして鉄板の上で焼いていく。

 焼きあがったら好きなパンに野菜と焼きあがったパテを乗せて好みのソースをかけてパンで挟んで出来上がりだ。

 ソースはトマトソースとデミグラスソースに似せたモノを作り、ハーブ入りのマヨネーズも作ってみた。

 付け合わせはフライドポテトとオニオンリングフライもどきだ。


「トウリさん。これはどうやって食べるのかしら」

「ナイフとフォークで切り分けて食べても構いませんが少し押さえて豪快に噛り付いて食べるのが良いと思います」


 フラウさんが戸惑いながら噛り付いて目を真ん丸にしている。


「美味しいし楽しいわね。初体験だわ」

「ありがとうございます」


 この組み合わせが最高だのソースを混ぜても良いだの楽しそうに食べている。

 パテを追加で焼いているとご婦人が執事を連れて現れた。


「ごきげんよう、フラウさん」

「ご無沙汰しております。ザルツの奥様」

「これは東方の国から頂いたものですがよろしければ召し上がってくださいな」

「ありがたく頂戴いたします」


 涼しそうな顔をしているけれど暑くないのだろうか。

 上流階級のマナーみたいなものなのだろうと思っているとフラウさんが笑いを堪えている。


「どうしたのですか? フラウさん」

「みんな気になって仕方がないのよ。見た事のないドレスに華やかで素敵な水着でしょ。何を食べているか気になって見に来たのよ。こんなに楽しい事はないわ」


 何でも暑い時期にはここに来て情報交換するのが習わしらしいけど実のところ情報交換は建前でただの見栄の張り合いだと教えてくれた。

 そんな訳でフラウさんは毎年来るのが億劫だったらしい。


「小さな街の領主だからって小馬鹿にされているようで嫌だったの。でも今は違うわ。トウリさんのお陰で王都ではフラウの街の噂で持ち切りだもの」

「私からもお礼を言いたい」

「サーシャも勘弁してください」


 フラグが立ちすぎて訳が分からないことになりそうで怖いがお世話になっているフラウさんの為にも押せ押せで行ってみよう。


 水着の感想を聞くと問題ないが周りの視線が恥ずかしいらしく。

 ここで色とりどりのパレオを取り出した。


「トウリさん、今度は何ですか? ただの四角い布にしか見えないですけど」

「それじゃアリーナさん。腕を広げて立ってみてください」

「こうですか?」


 アリーナさんの前に立って彼女の後ろでパレオを広げて脇の下を通し胸元で交差させて首の後ろで縛る。


「す、凄い。ドレスになった」

「トウリさん、お願いします」


 アリカは少し小柄なのでパレオを後ろから体を巻くようにして前できつめに縛りすその様になっている両端を後ろから持ってきて肩の位置で結ぶ。


「感激しちゃいそうです」

「お淑やかにね」

「はーい」


 ティムには前から首の後ろで両端を結び下の腰のあたりでパレオの端をつまんで長さを調節するために折り込んで後ろで縛ると腰にアクセントのあるワンピースになった。

 リーナには大人っぽく後ろから脇の下へと巻き付けて前で大き目のリボンの様に結べばオフショルダーのドレスが完成する。


「トウリが天才に見えて来た」

「でも、肝心なところがね」


 何処がダメなんだよ。リーナ。

 クロは前から脇の下に通して首の後ろで軽く結び結んだ先をくるくると捻じって前で交差させて巻き込むようにする。


「トウリの頭の中を見てみたいが良いか?」

「良い訳ないだろ」


 サーシャはワンショルの水着なのでパレオもワンショルダーになるように肩のところで結びパレオが広がらないように数か所をつまみ上げて縛る。


「腰に巻き付けるのが一番簡単だけどね」

「それじゃみんなで散歩にでも行きましょう。サーシャ、案内してちょうだい」


 フラウさんはちょっとした追撃のつもりなのかもしれない。

 本当に嬉しそうな顔をして散歩に出ていった。

 少しは恩返し出来ているのだろう。



 散歩から帰ってきてディナーの献立を考える。

 用意してくれている海の幸でバーベキューが無難かなと思っているとサーシャがランチの時にご婦人から頂いたという麻袋の様な物を持ってきた。


「トウリ、奥様からこれを使ってくれないかと言われたのだが。見た事もない食材なので困っているのだが」


 袋の中を見た瞬間に天にも昇るような気持ちになった。


「オーマイ(米)ガー」

「トウリ気は確かか。驚かせないでほしい。これでも小心者なのだから」


 気分が高揚しすぎていてサーシャの冗談に突っ込むことが出来なかった。

 袋の中身は俺が見間違うはずもなく米だった。

 この世界に来て米が食べられるなんて思ってもみなかったので泣きそうになってしまう。

 感無量の一言に尽きる。

 キッチンにある香辛料を片っ端から香りを確かめていく。


「ふふ、ふふふ。えへへ、えへへへ。あるじゃないか。へへへへ」

「と、トウリに後は任せたからな」


 サーシャが何かに怯えるように後ずさりしながらキッチンから出ていってしまった。

 手伝ってくれと言ったら頑なに拒まれてしまう。

 俺が何かしたのだろうか。



 シャワーの後に最後のお披露目をしておいた。

 クロのは少し末広がりの円筒状にして上を折り返してリボンを通したものをチューブトップみたいに胸の上でリボンを結んで腰の紐で絞る。

 リーナは少し襟ぐりが広いAライン気味の貫頭衣風ワンピースで腰のあたりでリボンを結ぶ。

 ティムはクロのショートバージョンにショートパンツで腰ひもはもちろん無し。

 アリカはV字ネックのリーナのショートバージョンで同じくショートパンツ。

 アリーナさんのは肩紐付きのワンピースになっていて。

 サーシャは筒状の布に肩ひもを縫い付けただけのキャミソールで巻きスカートにしてみた。

 なんだかファッションショーの着付けをしている気分になってきている。


 テラスにはスパイシーな香りが立ち込めている。

 一つの鍋では米を炊いていて。

 もう一つの鍋では弱火で数種類のスパイスと香味野菜を弱火で焦がさないようにじっくり炒める。

 十分に香りが立ってきたら少量の小麦粉ぽい物を加えてルーを仕上げて少しずつスープを加えながら伸ばしていく。

 もちろんスープは新鮮な魚のアラから取ったスープだ。

 そしてフライパンで軽く炒めた様々な魚貝を鍋に入れて少し煮立たせて火からおろす。

 水族館で見た事のあるオオグソクムシみたいな奴もいたけどスルー。

 良い出汁が出ているはずだ。

 異世界風シーフードカレーの出来上がり!

 器に盛りつけてテーブルに並べると何処からともなくつばを飲み込む様な音と可愛らしいおなかが鳴る音がするがスルーしよう。


「トウリさん。この白い物が頂いたものかしら」

「そうです。こちらでの呼び名は知りませんが。頂いた状態の物をお米と呼び炊いた状態の物をご飯と言っていました」

「それでは頂いてみましょう」


 誰も声を発せず黙々とカレーと対峙している。

 もちろん俺も。

 お代わりはと聞こうとしたが自分達で我先に取りに言っているので放置しておく。

 フラウさんとサーシャは食べ終えてナフキンで口元を吹いている。

 俺も大満足で放心気味になっていて。

「至福だ~」と心の声が漏れてしまった。


 食後にテラスでお茶をしていると入れ替わり立ち代わりご婦人たちが訪ねてきてフラウさんは始終ご満悦だった。

 フラウさんとサーシャが寝室に向かったので2階に上がる。

 手前の部屋にリーナとアリカが次に部屋にアリーナさんとティムが最後の部屋にって。

 指折りながら考えてスルー。

 部屋に入りベッドにダイブする。


「トウリ、少しそっちに行って良いか?」

「日焼けが痛いから嫌だ」

「リーナに手当てされたのだから痛みはないはずだ」

「…………」


 寝たふりを決め込もうかと思ったが進化したクロに突撃されたら体がもたないので早々に白旗を上げる。

 俺が壁の方を向いて背中にクロの背中のぬくもりを感じていた。


「トウリは向こうの世界とこちらの世界とではどちらが良い?」

「選べと言われても答えようがないかな。向こうの世界でも退屈はしなかったし充実はしていたからな。でも、向こうの世界での俺は既に死んだからこちらの世界にいる訳だし」

「でも、死んだとは限らないのだろう」


 確かにクロの言う通りだ。

 死んだと思っているのは俺だけかもしれないが、そもそも死ぬのは一度きりだから。

 自分自身では分からない訳で。


「もし、もしだぞ。向こうの世界で死んでなくてやり直せるとしたら。やっぱり帰りたいよな」


 クロの問いに対してすぐに返答が出来なかった。

 大きく息を吸いゆっくりと吐きながら体をクロの方に向ける。


「向こうの自分がどうなっているのかなんて関係ない。俺はここに居る。ここで生きている」

「でも、トウリは」


 こちらを向いたクロの瞳が不安そうに揺れている。

 クロの年齢なんか知らないしクロがどれだけ強いのかも分からない。

 年齢も強さも関係ない普通の女の子が目の前で不安そうな顔をしている。


「今を大切にしたい。シノンとの時間を大切にしたいと思う。これで良いかな」

「分かった」


 今は優しく抱きしめてやる事しかできない。

 腕の中でシノンが少しだけ泣いて静かに寝息をたて始めた。

 神様、使い魔が居ませんように。

 翌朝、リーナが地団駄を踏んでいたがスルー。

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異世界では桃太郎は鬼退治しないらしい 仲村 歩 @ayumu-nakamura

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