第13話 リゾートと水着

 幌馬車に揺られて西部劇さながらの旅行気分だ。

 馬車を引いているのは馬ではなく大きなハシビロコウだけど。


 フラウさんに指定された場所に店のみんなで向かうとアリーナさんはすでに来ていてサーシャが相変わらずの無表情で立っていた。

 その奥には幌馬車が見えるが馬ではなく大きな鳥が2羽繋がれていた。

 走るのに特化した強靭そうな足だけど巨大な口ばしと大きな頭に見合わないコミカルな体格で。

 クラッタリングして頭を振る仕草は奴にしか見えない。


「トウリは初めてだったな。あれはロウコビハシと言う飛べない鳥だよ。街中での通行は禁止されているから。あそこに繋いでおくんだ」


 クロに言われた方を見ると確かに何羽も繋がれている。

 そしてここがこの街の正門だと初めて知った。

 新しい石造りの大きな門があってその先には街道が続いている。

 俺が知っている出入口はほとんど冒険者用らしい。

 ロウコビハシはかなりの速度で馬車を引いているが道が綺麗なので快適な旅になっている。

 ほとんど動かない奴とは違うらしいが足の短いハシビロコウだよね。

 ギンに見送られて出発する。

 最近は顔なじみの冒険者からもギンは可愛がられていて街の護衛を言い付けた。



「トウリ、起きて。着いたよ」


 快適過ぎて寝てしまったようだ。

 全身で伸びをして目を開けるとリーナが呆れた顔をしていてみんなの笑い声が聞こえる。

 クロやサーシャに稽古を付けてもらいながら店をみて。

 最近は服屋からデザインを頼まれたり相談したりしていたので疲れていたのだろう。

 馬車を降りると周りは南国特有の植物に囲まれている。

 幹から何本も根が地中に向かって生えている植物や椰子の木もどきに色鮮やかな花が咲き乱れていて。

 ハシビロコウは大きな木桶に口ばしを突っ込んで水を飲んでいる。

 目の前にはウォールナット色をした2階建ての別荘が見えるがちょっとした木造のホテルの様にも見えるくらいに大きい。

 領主であるフラウさんの別荘だけあるのだろう。

 玄関を入って驚いたのが窓の外の海の色だ。

 真っ白な砂浜の向こうにエメラルドやアクアマリンの海が広がっているみたいだ。

 ティムにアリカやリーナとアリーナさんまで飛び出して行ってしまいクロがゆっくりと出ていて声を掛けている。


「奥様、お待ちしていました」


 声がする方を見ると小柄なダークエルフの女の子がグレーのメイド服を着て頭を下げている。

 不安そうな顔をしているのは俺が居るからかもしれない。


「ニナ、ご苦労様。あとはサーシャに任せて」

「は、はい」


 荷物が届いていることを告げると俯き加減のままでビーチの方に出ていった。


「フラグ確定ですか。トウリ」

「サーシャは変なことを言うのはやめてくれないかな」


 親指を立ててグッジョブってなんだよロリコンじゃないし。

 でもエルフって何歳から大人なのだろう。


「サーシャ。トウリさんが良からぬ事を考える前にテラスでお茶にしましょう」


 フラウさんまで勘弁してほしい。


「酸味があって美味い」

「ロゼリネと言う植物の花で作るお茶でここの特産品です」


 サーシャが用意してくれたのは赤い色をしたお茶でよく冷やされていて良い感じだ。

 フラウさんが着替えてくると言って奥の部屋に歩いて行く。


「なぁ、サーシャ。メイド服で暑くないの?」

「これが私の戦闘服ですから。問題ないです」


 さっきのニナと言うメイドさんですら半袖だったのに長袖を見ている方が暑く感じる。

 しばらくして4人が戻ってきてサーシャが出したアイスティーを一気に飲み干していた。


「あら、これは楽で良いわね。トウリさん、ありがとう」

「気に入って頂いて嬉しいです」


 フラウさんが着ているのはハワイのムームーで色は派手過ぎないように抑えめにしてある。

 上流階級のご婦人はどこに行くのもドレッシーなワンピースのような服装だと言っていたので楽な物を選んでみた。


「トウリさんの事だから何か隠し玉があるんですよね」

「あのね、アリカ。俺は魔法使いじゃないのだから。試作品でよければ試してみる?」


 アリカとティムの瞳が輝いている。

 届けられていた箱を開けるとカラフルな水着が出てきてそれぞれに配っていく。

 みんな不思議そうに触って確かめているようだ。


「俺が居た世界ではそんな水着をつけて泳ぐんだよ」


 この世界では普段着のままかワンピースの様な物を着て泳ぐと言っていたので珍しいのだろう。


「なぁ、トウリ。これってどうやって留めるんだ」

「それはこうしてここに引っ掛けるんだよ」


 クロに聞かれた部分が一番苦労したところだ。

 この世界にはゴムが存在しないので紐で縛って留める。

 ゴムの様なモノはないが伸縮性のある生地が見つかり。

 そこでタジンさんに相談しながら楕円形のリングにかぎ爪が付いた留め具を何とか作ってもらった。

 もちろん強度も実証済みだ。


「ねぇ、トウリさん。私も着なくちゃダメですか?」

「アリーナさんもご協力お願いします」

「そうよね。タダでこんな素晴らしいところに遊びに来られたんだものね」


 着替えに2階に上がっていってキャーキャー騒いでいる。



 クロにはホルターネックタイプの黒ビキニ。

 リーナにはブルーの王道ビキニ。

 アリカにはフリルが付いて下はスカートタイプのビキニでオレンジ色をチョイス。

 アリーナさんには赤いビキニでショートパンツスタイル。

 サーシャはワンショルダーの紫のビキニ。

 みんなビキニだけど布の伸縮性を考えるとビキニなってしまっただけで俺の嗜好は微塵も含まれていない。

 もちろんパンツはすべて紐タイプ。ゴムが存在しないのなら仕方がない。


「あのさ、トウリ。聞いて良い。サイズはぴったりなのだけど」

「当然じゃないですか。水着ですよ。ポロリもあるよなんて男にしたら天国だけど女の子は地獄でしょ」

「トウリが触りたいと言われれば嫌じゃないけどさ」


 リーナがとんでもない事を言い出してティムとアリカにアリーナさんが冷ややかな目をしていて。

 その後ろでどす黒い狼煙が2本上がっている。


「リーナには向こうの世界で俺がどんな仕事をしていたか話したことがあるだろ」

「たしか服をデザインしたりする仕事だよね」

「この世界風に言えば身体測定スキル。見ただけで全てのサイズが分かる」


 俺の言葉に戦慄が走っている。

 仕事柄身に付いた物ではなく中学の頃からだ。

 悪目立ちするでもなく中二病でもない俺は人畜無害と言う女子からの認識で普通におしゃべりもするし相談を受けることもあった。


「最近さ、太っちゃってダイエットでもしようかな」

「はぁ? 必要ないだろ。お前って身長152で体重40くらいだろ」

「な、何を言っているの。図星なんだけど。サイズまで分かったりしないよね」

「上から〇〇・〇〇・〇〇くらいだろ」


 誰にも言うなよと言われ近くの女の子のサイズを聞いてきて当ててみろと言われ答えたら当たっていたらしい。

 変態扱いされなかったのは男として見られていなかった可能性が高い。

 まぁ、男子に聞かれてもスルーしていたけど。

 思春期になれば異性に興味を持つのは当然で体も変化していくわけで。

 高校になると弁当の時間の飲み物を掛けて女の子のスリーサイズを言い当てるゲームが流行った。

 高確率で言い当てたので殿堂入りさせられてしまい。

 そのうちに俺の見立てを正解にされてしまった。

 女子にスリーサイズを聞くなんて今思えば非道な事をして申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 今じゃ完全にセクハラでアウトだろう。


「リーナは身長が156で上から○○・〇○・〇〇で体重が」

「トウリは。ば、馬鹿なの?」


 物凄い早業で口をふさがれてしまい、リーナを見ると真っ赤になって顔を引き攣らせている。

 リーナだけじゃ可哀想なので「次は誰だ」と言うと既にみんなビーチで遊んでいた。

 どうでも良い能力だと思っていたことが繋がっていき今に至るのだから面白い。


 

 真っ白なビーチに出るとビーチ沿いに間隔を開けながらコテージの様な建物が建っていて。

 ビーチはそれなりに賑わっているようで人気のリゾート地だということが伺える。

 葦簀が乗っているだけの様な日よけの下に木製のサマーベッドらしきものがあるので体を投げ出す。

 さざ波の音が聞こえ乾いた風が心地良い。


「フラウさん。ご無沙汰しています。とっても素敵なドレスですこと」

「そうかしら。とても涼しくて快適よ」


 遠くからフラウさんが誰かとお喋りしているのが聞こえてきた。

 何となく視線を移すとこの暑いのにドレスを御召になっているご婦人の姿が見える。

 あんまり宣伝しないでくださいね。フラウさん。


「トウリは泳がないのですか」

「もう少し休んでいるよ。戦闘服を脱いだ気分は」

「不安です。トウリの視線が」


 死亡フラグが立つような事を言わないでほしい。


「この辺には魔物の気配はないのだろう。泳いでくれば」

「そうさせていただきます」


 海に向かって行くサーシャの後姿を見ていたら謎の生命体が飛んできて顔に張り付いた。

 急いで引き剥がすとメンダコの様な生き物が蠢いている。


「エイリアンかと思った」

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