最後の五分
れなれな(水木レナ)
ブレイズ・ストライク!
わたしの名前はジュエル。
ジュエルド・グレアー。
ハーフなんだ。エルフのママと、人間のパパがいる。
十六歳になったこの度、冒険に出たい、と二人に言ったら、猛反対されて。
でもわたしは、あきらめられなかった……。
ごめん、ママ、パパ……。
わたしは旅立つ準備を始めた。
ミスリル鎧と、パパが写本したファイヤーボールの巻物。
ワインにナイフ、ロープをザックに詰めた。防寒具も必要だろう。
ママが作りすぎたサンドイッチも、わたしが唯一使える時間魔法で作りたてのままフリーズさせて持ち歩くことにした。非常食ね。
わたし、勇者になるの。
パパとママの庇護の下にいるだけでなく。
レスキューにも、レンジャーにも、修業期間が必要だって知ったから、体力作りもして、岩山に登ったり、空気の薄い山岳でキャンプと称して、特訓にも参加したの。
だから、きっとわたしはなれる。自分が信じなくてどうするの?
やるんだ。わたし――。
家を出た矢先――。
お隣で火事が起きた。奥行きのある一階建てだけれど、幼馴染のファレアスが中に残っているという。
わたしはなにも考えず、そのまま火の中へ飛び込んだ。
火の勢いはすぐに回った。ファレアスはどこ!?
「ここにいた!」
ファレアスは信じられないといった顔をした。
火はカーテンから天井に燃え移り、黒煙が漂い出す。
「もう駄目だ……げほっ。逃げきれない……」
彼の部屋は奥の方だから、窓を割るしかないけれど。
「……ここから抜けるよ!」
ファレアスの顔が絶望的にゆがめられる。
(これだ!)
わたしはポーチに入っていた、父の巻物をばっと開く。
「あと五分、壁際の空気を吸って、耐えて」
わたしは巻物を部屋中に設置。
息が乱れるし、肌を焼かれるのは苦痛。
しかし、わたしは勇者になる。こんなところで逃げるわけにはいかない。
仕掛けは終わった。
「ファイヤーボール!」
仕掛けた呪文が部屋中の酸素を燃やし尽くす。
炎は――より過激な爆発によって消えた。
そのすきに、ファレアスを逃がすと、わたしは時間魔法で炎の鎮火した時間を止めた。
壁にあいた穴からでると、ファレアスたちが周辺地域の大人たちに治療を受けながら待っていた。
「無事ね? ファレアス」
「ジュエル……ありがとう」
ふ、とわたしは笑った。
「だってわたしは勇者になるん……だから」
そう言いながら、わたしはパパとママの胸に倒れこんだ。
わたしの胸の中の砂時計が落ち切った。
ジャスト五分ってところ。
まあ、この件で肝を冷やしたという両親が、冒険はまだ早いって言って、部屋に閉じ込められちゃったんだけどね。
短い冒険だったなア。
と、思っていたら、窓に小石がぶつかる音。
表に、荷物を持ったファレアスがいた。
「なに?」
窓を開けて訊ねると、
「オレもいくよ。冒険しよう!」
たぶん、彼も両親の了解を得ていない。
だけど……勇者になるのは夢だから。
「今、いく!」
世界が、まぶしくなった――
【了】
最後の五分 れなれな(水木レナ) @rena-rena
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